「帰国者クリスチャン」の直面する問題、その傾向と対策


皆さん、カルチャーショックにあわれたことはありますか?

ハイ、あのカルチャーショックです。どこか遠い所に行ったとき、文化の色々な違いに驚いてしまうアレです。

私は高知県で生まれ育ちましたので、初めて高知の外に出たとき(小学校低学年)、自分の言葉(土佐弁)がほとんど通じなかったことに非常なショックを受けました。

まあ、この程度ならまだマシですが、これとは比べ物にならないほどに大きなカルチャーショックを経験するのが「帰国者クリスチャン」と呼ばれる人たちです。

ちなみに、この「帰国者クリスチャン」という言葉、正式名称かどうかは分かりませんので、このブログでは以下の横山好江宣教師の言葉に倣いたいと思います。

海外で福音に触れ、クリスチャンになって日本に帰国してきた人たちを「帰国者クリスチャン」と呼んでいます。

引用:横山好江『帰国者クリスチャンを理解するために』7頁

ここで「福音」というのは聖書に記される「良い知らせ」のこと。従って、このブログで帰国者クリスチャンとは、海外で聖書の内容に触れ、イエスを信じてクリスチャンになってから、日本に帰って来た人のことを指します。

この定義に従うと、私自身もアメリカでクリスチャンになって日本に帰って来ましたので、(立派に?)帰国者クリスチャンの一人となります。でも、

なぜ「帰国者クリスチャン」はカルチャーショックを経験するのか?

その原因と対策(案)を以下に記したいと思います。

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カルチャーショックの原因

カルチャーショックを経験したことのある方は分かると思いますが、カルチャーショックというのは、要するに、何らかの違いが原因となって生じるものです。

帰国者クリスチャンの場合、海外から日本に帰ってきたときに様々な違いに遭遇します。それらは大きく以下の二つに分類できます。

  • 教会内での環境の違い
  • 教会外での環境の違い

教会内での環境の違い

地域ごとの文化による違い

「えっ、教会内の環境って、同じ神様を信じているんだから、どこも一緒じゃないの?」と思われるかもしれません。私も多かれ少なかれそうだと思っていました。

しかし、地域ごとの文化(考え方)が違うと教会内の文化(考え方)も(結構)違うのです。

例えば、かなり乱暴な言い方になりますが、個人主義的な文化(考え方)が強い欧米の教会では、そこに集まる人々の考え方や組織の在り方なども個人主義的な傾向をもちます(全部が全部そうではありません)。

対して、集団主義的な文化(考え方)が強い日本では、教会内の文化(考え方)にも集団主義的な傾向が多く見られます(こちらも全部が全部そうではありません)。

また、文化の違いに関連して、言語の違いも大きな要素となります。なぜなら、それぞれの言語において、キリスト教の専門用語というものが存在するからです。これらの専門用語は日常の会話の中ではまず出てきませんので、新しく覚える必要があります。

従って、海外から日本に帰って来てもしばらくの間は、教会で使われている言葉(キリスト教用語)が分からず苦労することになります。

ただし、海外の日本人教会(主に日本人を対象とした教会で、やり取りは全て日本語もしくは日本語の通訳が付く)に行っていた場合は、言語による違いはほぼ存在しません。

教会の大きさによる違い

ご存知の方は多いと思いますが、世界的にみても日本ではクリスチャンの数が非常に少なく、日本の全人口に対して約1%と言われています。1

従って、日本の教会に集う人の数も海外の教会に比べると必然的に少なくなります。

例えば、私がアメリカで通っていた教会は200-300人の規模の教会でした。シンガポールの大きな教会では何千人もの人たちが集まるところもあります。

対して、日本の(プロテスタントの)教会では平均して40人ぐらいが集まると言われています。2

集まってくる人の数がこれほど異なると言うことは、教会内での人との交流の仕方や、組織の運営方法なども自然と異なってくることが想像できると思います。

具体的に言えば、日本では集まる人の数が少ないので、直ぐにほとんどの人の名前や素性を知ることができます。そして、しばらく通い続けるうちに互いに顔見知りになり、教会に集まる人全体と何となく家庭的な雰囲気をもった関係が出来上がります。

対して、海外の教会では人数が多すぎるので名前すら把握するのは難しい状況。自ら進んで関わりを求めなければ、ただ教会に行って帰ってくるだけとなります。気楽といえば気楽ですが、人との関わりを求めている人にとっては少し物足らないかもしれません(もちろん、自ら積極的に関わろうとすれば直ぐに知り合いはできます)。

ただし、海外の日本人教会は規模が小さく日本人の割合も多いため、日本の教会に似た雰囲気のところが多いと思います。

教団・教派による違い

教会内の環境の違いには教団・教派といった宗教団体の違いも絡んできます。

ご存知な方もいるかもしれませんが、仏教に沢山の宗派があるように、キリスト教にも沢山の宗派(教団もしくは教派と呼びます)があります。

キリスト教の大きな括りとしては、以下のようなものがあります。

  • カトリック
  • 正教会
  • プロテスタント

私の属するプロテスタントは、更に以下のように分かれます(全てを網羅してはいません)。

  • ルター派
  • 改革・長老派
  • バプテスト派
  • ホーリネス派
  • ペンテコステ派

それぞれの教団・教派によって、聖書の細かい所の教えが違います。そして、その違いは礼拝の様式や説教の内容などの違いとなって表れてきます。これは、茶道などで流派が異なると作法が異なるのに似ていると思います。

従って、例えば、アメリカのカトリックの教会でクリスチャンになった人が日本に帰って来て、家の近くのプロテスタントのペンテコステ派の教会に行ったとすると、その違いに驚くであろうことは容易に想像できると思います。

この辺りの教会間の違いは、企業間の違いを想像して頂くと理解しやすいかもしれません。

実際に経験した訳ではありませんので、あくまでも推測の域を超えませんが、例えば、

日本のマク●ナルドとアメリカのマク●ナルドでは、同じマク●ナルドとはいえ、社風が少なからず違うと思います(マク●ナルド⇔教会)。

まして、日本のグーグ●とアメリカのマク●ナルドでは、その社風の違いは更に顕著でしょう(グーグ●⇔プロテスタントのペンテコステ派の教会、マク●ナルド⇔カトリックの教会)。

これと似た形で、地域や教団・教派の違いによって、日本の教会と海外の教会の環境も異なるという訳です。

教会外での環境の違い

海外でクリスチャンになった人が日本に帰って来たとき、教会の中だけでなく教会の外でも様々な環境の違いに出くわします。

一番の違いは恐らく、周りにいるクリスチャンの数が圧倒的に少ないということでしょう。

先にも書きましたが、日本ではクリスチャンの数が非常に少なく全人口辺り約1%です。これは世界的にみても非常に少ない割合となっています。

従って、日本では、教会の外で他のクリスチャンと出会う確率が非常に小さくなります。海外では(国によっては)当たり前のように周りにクリスチャンがいたにも関わらず、です。

海外ではある意味、自分がクリスチャンであることを自然に(胸を張って?)言い表すことが出来たのに対して、日本ではどことなく肩身が狭い思いを感じることになります。3

また、クリスチャンとしての生き方やキリスト教について何か疑問が生じたとき、海外では教会外でも直ぐに気楽に相談できる相手がいました。

ところが、日本では、教会外で相談できるクリスチャンを探すのは非常に困難です。となると、相談相手は教会の牧師など、ごく限られた相手になってきます。しかし、牧師の都合や予定もありますから、「直ぐに気楽に」という訳にはいかなくなり、相談するのもためらいがちになるかもしれません。

このような環境の違いに戸惑いを感じる人は少なくありません。

カルチャーショックのもたらす問題とその原因

さて、日本と海外における環境の違いから様々な局面でカルチャーショックを経験する帰国者クリスチャン。そんな彼らの多くは、そのあまりの違いの大きさに馴染むことができず帰国してから2-3年のうちに教会に通うのを止めてしまうと言われています。4

その根本原因としては、例えば、以下のようなものが考えられると思います。

  • 海外の教会を理想化し過ぎて、日本の教会の現実を受け入れられない帰国者クリスチャンが多い
  • 海外でクリスチャンになって直ぐに帰国する人の割合が多く(帰国直前に周りからクリスチャンになるように「プレッシャー」を受けるため)、クリスチャンとしての(教会での)生活がどのようなものか分からずに帰国する帰国者クリスチャンが多い
  • 「異質」な存在を受け入れることに抵抗がある日本の教会が多い(多分に日本文化の影響)

上記三つの根本原因はそれぞれ以下のように分類できます。

  • 帰国者クリスチャン自身の課題
  • 海外から日本に帰国者クリスチャンを送り出す教会側の課題
  • 日本で帰国者クリスチャンを受け入れる教会側の課題

つまり、帰国者クリスチャン、送り出す側の教会、受け入れる側の教会という三者が問題意識をもって協力することが不可欠だと言えます。

問題に対する解決策(案)

それでは、

帰国者クリスチャンの多くが帰国後2-3年のうちに教会に通わなくなってしまう現状を打開するにはどうすればよいのか?

以下に述べるのは、あくまで私個人のアイデアレベルに過ぎません。が、帰国者クリスチャン自身の課題に対しては、例えば、

  • 現状を正しく認識して、日本できちんと再出発できる環境が必要
  • クリスチャンとしての生き方をしっかりと学ぶことのできる環境が必要

だと思います。

海外から送り出す側の教会としては、例えば、以下のようなことができるのではないかと思います(恐らく、どこの教会も既にやっていることだとは思いますが)。

  • 帰国者クリスチャンとして、日本でどのような生活を送れば良いかをアドバイスする
  • 帰国者クリスチャンを日本に送り出した後も継続的にやり取りをする

日本で受け入れる側の教会に対しては、例えば、以下のようなアプローチが考えられます。

  • 帰国者クリスチャンの実情・実態を説明し、受け入れへの理解を求める
  • 変えられないモノ(福音)と変えてもよいモノ(文化・伝統など)を見極め、より柔軟な態度で受け入れることができるように理解を求める

帰国者クリスチャン、送り出す側の教会、受け入れる側の教会同士の協力に関しては、例えば、以下のことが挙げられます。

  • 帰国者クリスチャンを受け入れたことのある教会、または受け入れに積極的な教会の情報を送り出す側の教会および帰国者クリスチャンに提供する仕組み・ネットワークの構築
  • 帰国予定の帰国者クリスチャンの情報を日本の諸教会に提供する仕組み・ネットワークの構築

以上、色々と書いてみましたが、実は私がここに書いたことのほぼ全てを網羅して取り組んでいる団体が既に存在します。その団体とは、

Japanese Christian Fellowship Network (JCFN)

私も過去に色々とお世話になりました。ご興味のある方は、上記リンクから詳細をご覧ください。

まとめ

海外で聖書の内容に触れ、クリスチャンになって日本に帰ってきた「帰国者クリスチャン」がなぜ様々なカルチャーショックを経験するのかをみてきました。

帰国者クリスチャンが遭遇するカルチャーショックの原因として、文化的な考え方や言葉の違い、教会の規模の違い、教団・教派の違い、クリスチャン人口の違いなど、様々なものがありました。

そのような違いのために、多くの帰国者クリスチャンは2-3年のうちに教会に通わなくなってしまうという衝撃的な事実。

この現状を打開するためには、帰国者クリスチャン、海外から送り出す側の教会、日本で受け入れる側の教会といった三者それぞれができることがあるでしょうし、三者それぞれを助ける・支援する働きも重要です。

と同時に、三者間の協力も必要不可欠ですし、その三者間の協力を橋渡しする役割も必要です。

もちろん、私個人でできることは限られています。しかし、他の多くの理解者と協力しながら、帰国者クリスチャンのために、できることをしていければと思っています。私自身も帰国者クリスチャンの一人として、助けを必要としているその人のために。

photo credit: www.holgersbilderwelt.de Flying dog / Fliegender Hund via photopin (license)

参考文献および注釈

  1. 2014年度でクリスチャン人口は約101万人、全人口比では0.81%。日本宣教170➤200プロジェクト「データブック 日本宣教のこれからが見えてくる ―キリスト教の30年後を読む」(東京: いのちのことば社、2016年)12頁。
  2. 同書、19頁。
  3. イスラム圏では日本以上にクリスチャンであることを言い表すことが困難な国もあります。
  4. 下記サイト参照。http://jcfn.org/jcfnhome/index.php?option=com_content&view=article&id=767&Itemid=804&lang=ja
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