と聞かれると、キリスト教について良く知らなくても、大抵の人は「十字架」を思い浮かべるのではないでしょうか。アクセサリーとして身に付けている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、
ことをご存知の方は少ないかもしれません。
この記事では、イエス・キリストが処刑された十字架刑とは一体どのような処刑方法だったのか、その目的は何だったのかを簡潔に紹介します。1
なお、イエスが十字架で死んだことについては下記の記事で詳しく紹介してありますので、興味のある方はそちらもご覧ください。
十字架刑によってどのようにして人が死に至るのか、その死因に興味がある方は下記の記事を参照ください。
今回の話の流れ(目次)は以下の通り。
十字架刑の目的
冒頭で十字架は死刑執行の道具だったと書きましたが、イエスが生きたおよそ2000年前のローマ帝国において、全ての死刑執行に十字架が使われた訳ではありません。
後で見るように、十字架刑というのは非常に残酷な刑罰でしたので、死刑は死刑でも主にローマ帝国への反逆罪に対して用いられました。このため、単なる死刑ではなく周りへの見せしめという意味合いをもっていました。2
しかも、その残酷さゆえにローマ市民や上流階級の人々が十字架刑に処せられることはほとんどなく、奴隷や非ローマ市民がその対象でした。3
十字架刑の処刑方法
では、国家への反逆罪として十字架刑を宣告された罪人が周りへの見せしめとして、具体的にどのような刑罰を受けたのか。
以下では、十字架刑による処刑方法の詳細を十字架に
- はりつけにされる前
- はりつけにされる時
- はりつけにされた後
の三つの段階に分けてみていきます。
はりつけ前
十字架刑による処刑は十字架にはりつけられる前から始まっています。4
受刑者はまず様々な拷問を受けました。その多くはムチ打ちでしたが、このムチ打ちによる出血多量で命を落とすこともあるほど壮絶なムチ打ちだったようです。
ムチ打ちが終わると今度は、自分がはりつけにされる十字架の横木(「十」の形の「一」の部分)を背負って、町の外の受刑地まで歩かされました(「十」の「I」に当たる部分の木の柱は通常、受刑地に絶えず設置されていたようです)。
鞭で打たれて肉体的にも精神的にも朦朧としているであろう中、重い木の柱を担がされる訳です。
しかも、横木を担いで受刑地まで歩いていく間、受刑者の罪状書きまたは「(反乱者の)肩書」を手にした者が道を先導します。
こうして、受刑者は町中の人々の見世物とされ、はりつけにされようとする道すがら、人々から罵りと嘲りを受けることなります。
と言えます。
はりつけ時
ムチ打たれ、町中の人々の見世物とされ、十字架の横木を担ぎながらやっとのことで受刑地にたどり着いた受刑者は、いよいよ十字架にはりつけにされていきます。5
ちなみに、この「十字架」の形には地域差がかなりあったようです。「十」の形もあれば、「T」の字のモノや「X」の形をしたもの、更には横木すらない「I」の形(もはや「十字架」とは呼べない)のものまであったようです。6
はりつけにされる時、受刑者はまず衣服を脱がされます(ハイ、全裸です)。
そして、横木を肩の下にして寝かせられ、広げた両腕または両手を横木に釘付けにされるか紐で結び付けられます。
それから、受刑者は起き上がらされ、地面に据えられている縦の柱に横木とともに固定されます。このとき、足は柱に釘付けにされるか紐で結わえられます。
柱には受刑者が少し腰をかけられるような木片が取り付けられている場合もありました。が、これはもちろん、親切心からではなく、死に至るまでの時間をより長くすることで、苦痛で苦しむ時間を延ばすことが目的です。
ここで、イエスが十字架にはりつけにされている絵画などをご覧になったことがある方は
と思われるかもしれません。
確かに、十字架に釘付けにされることもあったようですが、全ての十字架刑で十字架に釘付けにされていた訳ではなく、これにもまた地域差があったようです。
しかしながら聖書には、十字架で死んだ後に復活したイエスが手の釘の跡を弟子たちに見せる箇所があります(ヨハネの福音書20章24-27節)。
従って、イエスが十字架に釘打ちにされたのは確かなようです。
はりつけ後
十字架刑というのは実は、十字架にはりつけにされると直ぐに死んで終わりではありません。むしろ、十字架にはりつけにされてからが長いのです。
実際、受刑者が十字架にはりつけにされてから十字架上で死ぬまで短くても数時間、長い時には数日かかったようです。
その間、糞尿は垂れ流しですので、周囲は想像もしたくないほどの臭いに包まれます。
衣類は着ていませんので、寒暖をしのぐことはできません。
食べ物や飲み物も与えられませんので、空腹と脱水症状で身体はどんどん衰弱していきます。
さらに、鞭打たれ傷ついた身体から流れる血の匂いを嗅ぎつけて集まってくる動物たち(野犬やカラスなど)から身を防ぐことはできません。
そしてもちろん、十字架にはりつけにされている間中、通りすがりの人々からは国家に逆らった愚か者だと馬鹿にされ、罵られ、辱められます。
そんな状態が数時間から数日間続いた挙句、息を引き取っていく…。
と言えるでしょう。
まとめ
今回はイエス・キリストが処刑された十字架刑とは一体どのような処刑方法だったのか、その目的は何だったのかを紹介しました。
十字架刑はそのあまりの残酷さ故、主にローマ帝国に対する反逆罪に対する見せしめとして用いられました。
その一連の処刑方法(流れ)は以下のようなものです。
- 【はりつけ前】
- ムチ打たれる(出血多量で命を落とすこともあり)
- 十字架の横木を背負って受刑地まで移動させられる
- 罪状書きまたは「(反乱者の)肩書」を持った者が先導する(町中の見世物となる)
- 【はりつけ時】
- 衣服を脱がされる(全裸の辱めを受ける)
- 十字架の横木に両腕または両手を釘打たれるまたは紐で結わえ付けられる
- 十字架の縦の柱に足を釘打たれるまたは紐で結わえ付けられる
- 【はりつけ後】
- 死ぬまで(数時間から数日間)放置される
- 糞尿は垂れ流し
- 寒暖はしのげない
- 空腹と脱水症状に苦しむ
- 野犬やカラスにされるがまま
以上、「見せしめ」の意味合いを含むこともあって、受刑者は絶えず周囲の人々の見世物とされ、肉体的な苦痛はもちろん精神的な苦痛も味わいました。その痛み・苦しみは私たちの想像を絶するもの。
ですから、当時の人々にとって十字架」は誰もが忌み嫌うもの、残酷さと屈辱の象徴とも呼べるものでした。
でも今では、
とても興味深い変化です。それにしても、
気になる方は是非、下記の記事をご覧ください。
また、十字架刑によってどのようにして人が死に至るのか、その死因に興味がある方は下記の記事を参照ください。
参考文献および注釈
- Cicero, Marcus Tullius. “Against Verres,” translated in 1903. Wikisource. https://en.wikisource.org/wiki/Against_Verres.
- Dennis, J. “DEATH OF JESUS.” Edited by Joel B. Green, Jeannine K. Brown, and Nicholas Perrin. Dictionary of Jesus and the Gospels. Downers Grove, Ill.: IVP Academic, December 2013.
Joel B. Green, Jeannine K. Brown, Nicholas Perrin, Ivp Academic; (2013/9/12) - Fensham, F. C. “COVENANT, ALLIANCE.” Edited by D. R. W. Wood, I. H. Marshall, A. R. Millard, J. I. Packer, and D. J. Wiseman. New Bible Dictionary. Leicester, England ; Downers Grove, Ill: InterVarsity Press, December 1996.
D. R. W. Wood, A. R. Millard, J. I. Packer, D. J. Wiseman, I. Howard Marshall, Ivp Academic; Subsequent Edition (1996/10/1)
- 今回の記事は「イエス・キリストはなぜ死んだのか?①―死刑(十字架刑)の方法とその死因―」の内容を加筆修正したものとなっています。
- 十字架刑の残酷さは、紀元前一世紀の哲学者キケロをして「最も残酷で屈辱的な処罰(a most cruel and ignominious punishment)」と言わしめたほどです。Marcus Tullius Cicero, “Against Verres,” translated in 1903, 2. 5. 64. 165, Wikisource, https://en.wikisource.org/wiki/Against_Verres.
- 詳細は下記を参照。J. Dennis, “DEATH OF JESUS,” ed. Joel B. Green, Jeannine K. Brown, and Nicholas Perrin, Dictionary of Jesus and the Gospels (Downers Grove, Ill.: IVP Academic, December 2013), 174.
- 詳細は下記を参照。F. C. Fensham, “COVENANT, ALLIANCE,” ed. D. R. W. Wood et al., New Bible Dictionary (Leicester, England ; Downers Grove, Ill: InterVarsity Press, December 1996), 245–246.
- 詳細は下記を参照。ibid., 246.
- Dennis, “DEATH OF JESUS,” 174.