少し前に下記のブログで聖書の内容をおおまかに説明しました。
そのときも少し触れましたが、聖書は大きく旧約聖書と新約聖書の二つに分かれています。でも、そもそものところ、
と思われる方は多いと思います。
という訳で、今回はまだ聖書を読んだことのない方を対象に旧約聖書と新約聖書の違いについて簡単に説明したいと思います。
話の流れ(目次)は以下の通り。
名前の違い
まず最初は名前の違いから。
私は、恥ずかしながらクリスチャンになる前、「キュウヤク」聖書、「シンヤク」聖書と聞いて、「旧訳」「新訳」という漢字を思い浮かべました。
つまり、
と思ってしまった訳です。
でも、幸いなことに(?)、(そのときは知りませんでしたが)聖書の翻訳には確かに古いものと新しいものがあります。1
ので、考えそのものはあながち間違ってはいなかったのですが(ハイ、苦しい言い訳です)、世間一般でキュウヤク聖書、シンヤク聖書というときの漢字は、もちろん、旧「訳」、新「訳」ではなく旧「約」、新「約」です。
では、その旧約、新約が何を意味するかというと、それぞれ古い「契約」、新しい「契約」です。そして、
- 旧約聖書は「古い契約」にまつわる文書集
- 新約聖書は「新しい契約」の基礎をなす文書集
となっています。2
ここで、古い・新しい「契約」とは「神と人とが結んだ契約(covenant)」のことで、その契約の大枠は、
というもの(参照:出エジプト記6章2-8節、エレミヤ書31章33節)。
なお、キリスト教の中でカトリックを旧教、プロテスタントを新教と呼ぶことがあるため、旧約聖書はカトリックの聖書、新約聖書はプロテスタントの聖書と思っていらっしゃる方がいるかもしれません。
が、これは間違いです。
カトリックもプロテスタントも(そして正教も)旧約聖書と新約聖書のどちらも聖典としています。3
ちなみに、旧約聖書は使っても新約聖書は使っていないのはカトリックではなく「ユダヤ教」です。4。
内容の違い
さて、次は気になる内容の違いについて。
まず、そもそものところ、旧約聖書と新約聖書では想定している読者が違います。というのも、
- 旧約聖書は主にイスラエル民族(ユダヤ人たち)に向けて
- 新約聖書はユダヤ人だけでなく、あらゆる人々に向けて
書かれているからです。この想定読者の違いは書かれている言語の違いからも明らかです。事実、
- 旧約聖書はヘブライ語(一部、アラム語)によって
- 新約聖書はギリシア語によって
書かれていますが、ヘブライ語はイスラエル民族固有の言語、ギリシア語は新約聖書が書かれた当時のローマ帝国で広く使われていた言葉でした。
また、旧約聖書は古い契約、新約聖書は新しい契約に関係する文書集ということから、旧約聖書の方が年代的に古いに違いないと思われると思います。実際、その通りで、将来起こるであろう出来事を記した預言を除くと、
- 旧約聖書には世の始まり(天地創造)から紀元前400年頃までの話
- 新約聖書にはイエスの誕生(紀元前5-6年頃)から紀元後100年頃までの話
が記されています。
それにしても、
と思われると思いますが、その理由は
です(参照:へブル人への手紙8章6-9節)。そして、
なのです。このことから、
- 旧約聖書はイエスが生まれる前に書かれたユダヤ教とキリスト教の聖典
- 新約聖書はイエスが死んだ後に書かれたキリスト教独自の聖典
とも言えます。
この新旧二つの「契約」の違いという観点からみると、旧約聖書と新約聖書にはそれぞれ以下のことが書かれているといえます。
- 【旧約聖書】
- 神はイスラエルの民と契約を結んだ
- にもかかわらず、イスラエル民族の契約不履行(神に従わなかった)によって、契約が破棄された
- にもかかわらず、神は新しく優れた契約を結び直すことを約束した
- 【新約聖書】
- 神は約束通り、イエス・キリストを通して(イスラエル民族に限らず誰でも)新しい契約を結べるようにした
なお、旧約聖書と新約聖書には上述のような違いがあるにもかかわらず、聖書全体を通して、一つの大きな物語が書かれているとみることができます。その一つの大きな物語とは、
で、その話の流れ・あらすじは以下になります。6
- 神が天地万物を造る
- 神に造られた人間が神に背く(神のようになろうとする)
- 人間が神に背いた故に壊れてしまった神と人間の絆を神が回復しようとする
- 将来的にイエスが再びやって来て、全てを正しく裁き、新しい天地が創造され、神が人を救う物語が完結する
まとめ
今回はまだ聖書を読んだことのない方を対象に旧約聖書と新約聖書の違いについて簡単に紹介しました。その内容をまとめると以下の通り。
- 【想定読者の違い】
- 旧約聖書は主にイスラエル民族(ユダヤ人たち)に向けて書かれた
- 新約聖書はユダヤ人だけでなく、あらゆる人々に向けて書かれた
- 【言語の違い】
- 旧約聖書はヘブライ語(一部、アラム語)によって書かれた
- 新約聖書はギリシア語によって書かれた
- 【成立年代の違い】
- 旧約聖書はイエスが生まれる前に書かれた
- 新約聖書はイエスが死んだ後に書かれた
- 【記載内容の年代の違い(預言を除く)】
- 旧約聖書には世の始まり(天地創造)から紀元前400年頃までの話が記されている
- 新約聖書にはイエスの誕生(紀元前5-6年頃)から紀元後100年頃までの話が記されている
- 【契約の違い】
- 旧約聖書には「古い契約」にまつわる文書集が収められている
- 神はイスラエルの民と契約を結んだ
- にもかかわらず、イスラエル民族の契約不履行(神に従わなかった)によって、契約が破棄された
- にもかかわらず、神は新しく優れた契約を結び直すことを約束した
- 新約聖書には「新しい契約」の基礎をなす文書集が収められている
- 神は約束通り、イエス・キリストを通して(イスラエル民族に限らず誰でも)新しい契約を結べるようにした
- 旧約聖書には「古い契約」にまつわる文書集が収められている
ここに出て来る古い・新しい「契約」の大枠は「神が人々の神となり、人々が神の民となる」というものです(参照:出エジプト記6章2-8節、エレミヤ書31章33節)。
なお、旧約聖書と新約聖書の間に存在する上述のような違いにも関わらず、聖書全体を通して「神が人を救う物語」が書かれているとみることができます。その話の流れ・あらすじは以下のようになります。
- 神が天地万物を造る
- 神に造られた人間が神に背く(神のようになろうとする)
- 人間が神に背いた故に壊れてしまった神と人間の絆を神が回復しようとする
- 将来的にイエスが再びやって来て、全てを正しく裁き、新しい天地が創造され、神が人を救う物語が完結する
以上、旧約聖書と新約聖書の違いについてでした。
参考文献および注釈
- Bruce, F. F. “BIBLE.” Edited by D. R. W. Wood, I. H. Marshall, A. R. Millard, J. I. Packer, and D. J. Wiseman. New Bible Dictionary. Leicester, England ; Downers Grove, Ill: InterVarsity Press, December 1996.D. R. W. Wood, A. R. Millard, J. I. Packer, D. J. Wiseman, I. Howard Marshall, Ivp Academic; Subsequent Edition (1996/10/1)
- Fee, Gordon D., and Douglas K. Stuart. How to Read the Bible Book by Book: A Guided Tour. Grand Rapids, Mich.: Zondervan, 2002.Gordon D. Fee and Douglas Stuart, Zondervan (2014/6/24)
- 「どの翻訳の聖書を買うべきか」について、お悩みの方は下記のブログをご参照ください。「初めての聖書、どれを買うべき?ー初心者におすすめの日本語訳聖書ー」
- 二つの「契約」の関係および「旧約聖書」「新約聖書」という言葉の成り立ちについては下記を参照。F. F. Bruce, “BIBLE,” ed. D. R. W. Wood et al., New Bible Dictionary (Leicester, England ; Downers Grove, Ill: InterVarsity Press, December 1996), 136.
- ただし、カトリックでは、プロテスタントが「旧約聖書」と認めている文書の他にも「旧約聖書続編」または「第二正典」と呼ばれる文書集も聖典としています。
- ユダヤ教の人たちは自分たちの聖典を「旧約聖書」ではなく、「タナハ(またはタナク)(Tanakh)」と呼んでいます。
- Bruce, “BIBLE,” 137–138.
- 詳細は下記のブログ記事および参考文献を参照。「分厚い聖書、何が書いてある?ー初心者にも分かる簡単な内容解説ー」; Gordon D. Fee and Douglas K. Stuart, How to Read the Bible Book by Book: A Guided Tour (Grand Rapids, Mich.: Zondervan, 2002), 14–20.