サタン、ルシファー、デビル、デーモン、悪魔、悪霊、違いは何?―悪霊の性質と働き―

少し前に以下の記事で「キリスト教(聖書)の語る天使の性質と役割」をみました。

キリスト教(聖書)の天使とは?階級や性別、種類や特徴は?―天使の性質と役割―
「天使・エンジェル」と聞くと「羽の生えた赤ちゃん」をイメージする方は多いと思います。しかし実は、聖書には赤子の天使は出てきませんし、そのほとんどには羽も生えていません。聖書に記される天使の素顔・真相(性質と役割)に迫ります。

その中で、神に対して罪を犯した天使(堕天使)は「悪霊」と呼ばれると紹介しました。が、

天使のことばかり紹介して悪霊のことを紹介しないのは不公平だ!

と思われる方のご期待に応えるべく、今回のテーマは「キリスト教(聖書)の語る悪霊の性質と働き」

その中で、キリスト教(聖書)に馴染みがない方も一度は聞いたことがあるであろう「サタン」「ルシファー」「デビル」「ベリアル」「ベルゼブル(ベルゼブブ、ベエゼブル)」「悪魔」といった存在の違いも紹介したいと思います(これらの違いだけに興味がある方は「名前と階級・種類」をご覧ください)。

話の流れ(目次)は以下の通り。

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悪霊の性質

罪を犯した天使(堕天使)

Fountain of the Fallen Angel, Retiro Park (Madrid, Spain) By No machine-readable author provided. Thermos assumed (based on copyright claims). - No machine-readable source provided. Own work assumed (based on copyright claims)., CC BY-SA 2.5, Link

冒頭で「神に対して罪を犯した天使(堕天使)は「悪霊」と呼ばれる」と書きましたが、聖書の中に「堕天使=悪霊」とはっきり書かれている訳ではありません。

しかしながら、神に対して罪を犯した天使(堕天使)たちがいることは記されています。

神は、罪を犯した御使いたちを放置せず、地獄に投げ入れ、暗闇の縄目につないで、さばきの日まで閉じ込められました。【ペテロの手紙 第二2章4節】

出典:新日本聖書刊行会『聖書 新改訳2017』(いのちのことば社、2017年)〈新〉474頁1

ここには、罪を犯した御使い(天使)たちが神によって地獄に投げ入れられ、つながれ、閉じ込められていると記されています。

ん?でも、「地獄でつながれて閉じ込められている」ということは、罪を犯したこれらの天使たちは何もできない状態にあるんじゃないの?

と思われると思います。しかし、これらの表現は文字通りの意味ではなく「罪を犯した天使たちの活動が制限されている」ことを表す比喩的な意味で用いられていると解釈ができます。2

とはいえ、これだけだとまだ厳密には「堕天使=悪霊」とは言えません。が、他の聖書個所をみていくと、天使たちと悪霊たちが似通った特性・性質をもっていることが分かります。3

例えば、天使たちと悪霊たちに共通する特性・性質として以下のようなものがあります。4

  • 霊的な存在である
  • 羽をもつ者が存在する(ホセア書4章19節)5
  • 高い知性をもち、倫理道徳的な判断ができる(人を惑わすことができる;テモテへの手紙第一4章1節)
  • 人間以上の力をもつ(奇跡を行うことができる;ヨハネの黙示録16章14節)
  • 悪霊にも天使と同じく「かしら(リーダー)」が存在する(マタイの福音書12章24節)
  • 天使も悪霊も集団(「レギオン」と呼ばれる6000人単位)で行動することがある(マタイの福音書26章53節;マルコの福音書5章9節)

そして、悪霊は天使に変装できるとも記されています(コリント人への手紙第二11章14-15節)。

以上のようなことから、悪霊は罪を犯した天使(堕天使)だと言うことができます。

ちなみに、悪霊は英語でdemonですので、「悪霊=デーモン」となります。

ここでひとつ大事なこと。それは、

神が悪霊そのものを造り出した訳ではない

ということ。

確かに、神は天使を造り出しました(詩篇148篇2-5節;コロサイ人への手紙1章16節)。けれども、天使が罪を犯した(悪霊となった)のは神に責任がある訳ではありません。

別の言い方をすれば、

天使に倫理道徳的な判断をする能力を与えたのは確かに神ですが、その能力をどのように使うか(罪を犯すか犯さないか)は使う側(天使)に責任がある

ということになります。

特徴・能力


Illustration By Gustave Doré - https://ebooks.adelaide.edu.au/m/milton/john/paradise/complete.html, Public Domain, Link

悪霊たちには前項で挙げた天使たちと共通する特性・性質の他に悪霊特有の特徴もあります。その最たるものは

人々に罪を犯させて神から引き離し、滅ぼそうとしていること

です。6別の言い方をすれば、

悪霊たちは神に対して罪を犯して神に裁かれることが決まっているので、少しでも多く自分たちの「道連れ」を作りたいと思っている

と言えるかもしれません。

特に悪霊たちのかしらとされる悪魔(サタン)は厄介な存在で、「初めから人殺し」「偽りの父」とも呼ばれたり(ヨハネの福音書8章44節)、「初めから罪を犯している」とされています(ヨハネの手紙第一3章8節)。

そして、

悪魔(サタン)は絶えず神に逆らい、神の計画・目的を妨害しようとしている

のです。

実際、新約聖書では善なる神の軍勢とサタン率いる悪の軍勢が対立しているように描かれる個所が少なからず存在します(例:エペソ人への手紙6章11節;ユダの手紙9節;ヨハネの黙示録12章7-12節など)。7

名前と階級・種類


Satan Summoning his Legions By Thomas Lawrence - http://www.royalacademyprints.com/image/1131485/sir-thomas-lawrence-1769-1830-satan-summoning-his-legions, Public Domain, Link

天使たちの場合、プロテスタントの聖書に出てくる名前はミカエルとガブリエルの二つのみでした(カトリック固有の聖書「旧約聖書続編(第二正典)」を含めると三つ)。

悪霊たちに関しては、悪霊たちのトップとされる人物(?)一人だけの名前が出てきます。が実は、その名前・呼び名・肩書は以下のようにたくさんあります。8

  • サタン(Satan;マタイの福音書12章26節など)
  • 悪魔(the devil;マタイの福音書4章1節など)
  • ベルゼブル(Beelzebul;マタイの福音書12章24節など)
  • ベリアル(Belial;コリント人への手紙第二6章15節)
  • 蛇(serpent;ヨハネの黙示録12章9節など;比較:創世記3章1節)
  • 竜(dragon;ヨハネの黙示録12章9節など)
  • 悪霊のかしら(the prince of demons;マタイの福音書12章24節など)
  • この世を支配する者(the prince of this world;ヨハネの福音書14章30節)3
  • この世の神(the god of this age;コリント人への手紙第二4章4節)
  • 空中の権威を持つ支配者(the ruler of the kingdom of the air;エペソ人への手紙2章2節)3
  • 不従順の子らの中に今も働いている霊(the spirit who is now at work in those who are disobedient;エペソ人への手紙2章2節)3
  • 試みる者(the tempter;マタイの福音書4章3節)3
  • 誘惑する者(the tempter;テサロニケ人への手紙第一3章5節)
  • 悪い者(the evil one;ヨハネの手紙第一5章19節など)
  • 告発者(the accuser;ヨハネの黙示録12章10節)3
  • 敵(enemy;ペテロの手紙第一5章8節など)

「サタン」という名前の語源となっているヘブル語śâṭānには「敵対者(adversary)」もしくは「敵対者として反対する、告発する」という意味があります。 9このため、「告発者」や「敵」と呼ばれるのも納得がいきます。

日本語で「悪魔」と訳されている元々のギリシャ語はdiabolos(ディアボロス)で、「中傷者(slanderer)」という意味があります。 10英語ではthe devilと訳されていますので、聖書的には悪魔とディアボロス、そしてデビルは同じ存在を指します。

「ベルゼブル(Beelzebul)」は「ベルゼブブ(Beelzebub)」または「ベエゼブル(Beezeboul)」と記されることもあります。その語源ははっきりしていないようですが、「ベルゼブル」の発音が「バアル・ゼブル」に似ているため、旧約聖書に出てくる異教の神「バアル(Baal)」と関係していると考える学者もいます。

なお、「バアル・ゼブブ(Baal-zebub)」は「蠅の王(主人)」を意味するパレスチナ地方の神の名前ですが、ベルゼブルとの関連性は不確かです。11

「ベリアル」は「よこしまさ」を意味するヘブル語「ベリヤアル(belyya'al)」が語源と考えられています。旧約聖書では個人名としては出てきませんが、イエスの時代には神の大敵(archenemy)として「サタン」よりも広く用いられていた言葉だったようです。12

ちなみに、「ルシファー(Lucifer)」という名前を聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれません。

ルシファーとは元々はラテン語で「金星」を意味する言葉luciferosから派生した言葉で、歴史的な経緯から、サタンの別名として用いられるようになったようです。13

しかしながら、「ルシファー」という言葉は現代の聖書には一度も出てきません。14

冒頭で「サタン」「ルシファー」「デビル」「ベリアル」「ベルゼブル(ベルゼブブ、ベエゼブル)」「悪魔」の違いを明らかにすると書きましたが、ここまでくるともう皆さんお分かりだと思います。そう、聖書(キリスト教)的には

「サタン」「ルシファー」「デビル」「ベリアル」「ベルゼブル(ベルゼブブ、ベエゼブル)」「悪魔」「ディアボロス」は全て同じ存在を指す言葉

なのです。そして、サタンと悪霊(デーモン)の関係はというと

サタンは悪霊のかしら(リーダー)

となります。従って、

サタンは悪霊たちを用いて、人々に罪を犯させて神から引き離そうとし、神の計画・目的を妨害しようとしている

と言えます。

なお、御使いのかしらが何人いるかは定かではありませんが、「この世を支配する者」「この世の神」「空中の権威を持つ支配者」といった呼び名・肩書は全て単数形ですので、悪霊たちのかしら(サタン)は一人しかいないと思われます。

悪霊の働き


The Temptation of Christ By Ary Scheffer - [1], Public Domain, Link

前節では、悪霊たち(特にかしらであるサタン)に固有な特徴・目的は

人々に罪を犯させて神から引き離し、神の計画・目的を妨害すること

であることをみました。今節では、サタンが(悪霊たちを用いて)具体的にどのように人間と関わりをもつのか、悪霊たちの働きを見ていきます。

まずサタンは様々な方法を使って人間を誘惑し罪を犯させようとします。実際、イエスも悪魔の試み(誘惑)にあっていますし(マタイの福音書4章1-11節)、サタンの誘惑に負けてしまった人物が聖書には記されています(ルカの福音書22章3節;使徒の働き5章3節など)。15

サタンは誤った教えを広めて人々を神から引き離そうとします(参考:ヨハネの手紙4章1-4節;コリント人への手紙第二4章4節;11章3-4節など)。16 このため、異教の神々や偶像が悪霊とみなされることもあります(申命記32章17節;ホセア書4章12節;コリント人への手紙第一10章19-20節)。17

サタンは「告発者」(ヨハネの黙示録12章10節)として、神の言うこと・成すことにあれこれと口を挟んだり、非難したりします(参考:創世記3章1-6節;ヨブ記1-2章;ゼカリヤ書3章など)。それによって、人々の心に(神に対する)疑いや不安を生じさせます。18

サタンによって、キリスト・イエスを信じる者たちが周りの人たちから迫害を受け、苦しむこともあります(参考:ペテロの手紙第一5章9節;ヨハネの黙示録2章9節)。そして時には命を落とすことさえあると聖書は語ります(ヨハネの黙示録2章13節)。19

また、新約聖書の福音書の中には悪霊(汚れた霊)につかれた人々が出てきます。そして、イエスはそれらの悪霊を追い出したと記されています(例:マルコの福音書1章21-28節;5章1-20節; 7章24-30節;9章14-29節など)。

悪霊につかれた人の中には肉体的もしくは精神的な不調を患っている人がいて、イエスが悪霊を追い出すことで正常になった(癒された)とされています(マルコの福音書5章1-20節;9章14-29節など)。このため、

ひょっとして、この世の病気は全て悪霊のせいなんじゃないか?

と思いたくなります。しかしながら、聖書において悪霊の追い出しと病の癒しは別物として扱われています(マルコの福音書1章32-34節など)。従って、

聖書は全ての病が悪霊のせいだとは教えてはいません。20

悪霊の限界と最期


Michael casts out rebel angels. Illustration By Gustave Doré - https://ebooks.adelaide.edu.au/m/milton/john/paradise/complete.html, Public Domain, Link

これまで悪霊やサタン(悪魔)の特徴や働きをみてきました。

人間以上の力をもった堕天使たちが、私たち人間を神から引き離そうとして、誘惑したり、だましたり、苦しめたりする

と聞くと、誰もが非常に気が重くなってきた、生きるのが辛くなってきたと感じると思います。

しかしながら、話はここで終わりません。というのも、

悪魔・悪霊の力には限界がある

からです。というのも、悪霊のかしらである悪魔(サタン)ですら、神の許しがなければ何もできません(ヨブ記1章12節;2章6節)。

また、悪霊(罪を犯した御使い、堕天使)たちは罪を犯したが故につながれ閉じ込められています(ペトロの手紙第二2章4節;ユダの手紙6節)。これはつまり、悪霊たちの力は、私たち人間よりは強いですが、天使たちよりも弱いことを意味します。21

そして、天使たちは様々な形で私たちを助けてくれるのです(例:詩篇34篇7節;91篇11節;ダニエル書3章28節;使徒の働き5章19-20節など)。

次に、

イエスが十字架で死んだことによって、悪霊のかしらである悪魔(サタン)は滅ぼされた

と聖書は語ります(へブル人への手紙2章14-15節)。とはいえこれは、悪魔がいなくなった訳ではなく、悪魔の力が弱められて、その支配にあった人々が解放されたことを意味します(比較:ヨハネの手紙第一3章8節)。22

さらに、

最終的に神は悪魔に完全に勝利し、悪魔は火と硫黄の池に投げ込まれる

とも記されています(ローマ人への手紙16章20節;ヨハネの黙示録20章10節)。

このことは、

神を信じ従う人々(クリスチャンたち)に悪魔・悪霊がもたらすどんな試練(誘惑)をも耐え忍ぶ力と希望を与えてくれる

ものです(比較:ヨハネの手紙第一4章4節;コリント人への手紙第一10章13節;ヤコブの手紙4章7節)。23

最後に、忘れてはいけないことが一つ。それは、

神は悪魔や悪霊が企てる様々な策略(悪)をも用いて、御自分の計画・目的を確実に実現する全知全能なお方

だということ。

その典型的な例はイエスが十字架刑で死んだ出来事でしょう。24

身に覚えのない濡れ衣を着せられ、無実の罪で処刑されるというのは、誰がどう考えても完全な悪です。しかし、イエス・キリストは無実の罪で十字架刑に処されました。言うなれば、

この世に悪が存在したが故にイエスは十字架で死ぬことになった

訳です。

イエスが十字架で死んだ瞬間、悪魔は喜んだに違いありません。

人々を罪の滅びから救うという計画・目的を果たすため、神自らが人の姿をとってイエスとして地上に来たとき、

「どうにかして、その神の計画を邪魔してやろう」

と悪魔は思ったはずです。そして、たくさんの人をそそのかし、遂に、全くの無実の罪でイエスの命を奪うことに成功したのです。

「よし、これで神の計画は台無しだ!」

と思ったのも束の間、実はイエスが無実の罪で十字架で死ぬことこそが、全ての人を罪の滅びから救おうとする神の計画には必要だったのです。

しばしば、善(神)VS悪(サタン)という構図で、神とサタン(悪魔)がライバル同士のように描かれることがありますが、聖書(キリスト教)は神とサタンを同格には並べません。

神は天地万物の創造主なのに対して、サタンは被造物である堕天使の一人、神はサタンとは全く次元が異なる存在

なのです。

たとえ今現在、どんなに悪がはびこっているように見えたとしても、神の計画・目的は必ず達成される。

そのことをイエスの十字架は私たちに教えてくれます。3

まとめ

今回のテーマは「キリスト教(聖書)の語る悪霊の性質と働き」でした。分かったことをまとめると以下の通り。

まず、聖書によると、神に対して罪を犯した天使たち(堕天使)がいるということが分かりました(ペテロの手紙 第二2章4節;ユダの手紙6節)。

そして、天使たちと悪霊たちは以下のような似通った特性・性質をもっていることをみました。

  • 霊的な存在である
  • 羽をもつ者が存在する(ホセア書4章19節)
  • 高い知性をもち、倫理道徳的な判断ができる(人を惑わすことができる;テモテへの手紙第一4章1節)
  • 人間以上の力をもつ(奇跡を行うことができる;ヨハネの黙示録16章14節)
  • 悪霊にも天使と同じく「かしら(リーダー)」が存在する(マタイの福音書12章24節)
  • 天使も悪霊も集団(「レギオン」と呼ばれる6000人単位)で行動することがある(マタイの福音書26章53節;マルコの福音書5章9節)
  • 悪霊は天使に変装できる (コリント人への手紙第二11章14-15節)

これらのことから、罪を犯した天使(堕天使)は悪霊に等しいことが分かります。

次に、悪霊たちに特有の特徴というのは、

人々に罪を犯させて神から引き離し、滅ぼそうとしていること

特に

悪霊のかしらと呼ばれる悪魔(サタン)は絶えず神に逆らい、神の計画・目的を妨害しよう

としています。

悪魔(サタン)にはたくさんの呼び名・肩書があります。それらは以下のようなものです。

  • サタン(Satan;マタイの福音書12章26節など)
  • 悪魔(the devil;マタイの福音書4章1節など)
  • ベルゼブル(Beelzebul;マタイの福音書12章24節など)
  • ベリアル(Belial;コリント人への手紙第二6章15節)
  • 蛇(serpent;ヨハネの黙示録12章9節など;比較:創世記3章1節)
  • 竜(dragon;ヨハネの黙示録12章9節など)
  • 悪霊のかしら(the prince of demons;マタイの福音書12章24節など)
  • この世を支配する者(the prince of this world;ヨハネの福音書14章30節)
  • この世の神(the god of this age;コリント人への手紙第二4章4節)
  • 空中の権威を持つ支配者(the ruler of the kingdom of the air;エペソ人への手紙2章2節)
  • 不従順の子らの中に今も働いている霊(the spirit who is now at work in those who are disobedient;エペソ人への手紙2章2節)
  • 試みる者(the tempter;マタイの福音書4章3節)
  • 誘惑する者(the tempter;テサロニケ人への手紙第一3章5節)
  • 悪い者(the evil one;ヨハネの手紙第一5章19節など)
  • 告発者(the accuser;ヨハネの黙示録12章10節)
  • 敵(enemy;ペテロの手紙第一5章8節など)

なお、英語で悪魔はthe devil、悪霊はdemonですから、

サタン、悪魔、デビル、ベルゼブル、ベリアルは全て同じ存在で、悪霊(デーモン)たちのかしら(トップ)

ということが分かります。

なお、「ルシファー」という名前はラテン語で「金星」を意味する言葉luciferosから派生した言葉で、歴史的な経緯から、悪魔(サタン)の別名として用いられるようになりました。

従って、以下の関係式(?)が成り立ちます。

サタン=悪魔=デビル=ディアボロス=ベルゼブル(ベルゼブブ、ベエルゼブル)=ベリアル=ルシファー

悪魔=悪霊のかしら≠悪霊=デーモン

また、悪霊のかしらは一人しか存在しないと思われます。

悪魔や悪霊たちがどのようにして神の計画・目的を妨害するか、その方法は例えば以下のようなものが考えられます。

  • 人間に罪を犯させるように誘惑する(参考:マタイの福音書4章1-11節;ルカの福音書22章3節;使徒の働き5章3節など)
  • 誤った教えを広めようとする(参考:ヨハネの手紙4章1-4節;コリント人への手紙第二4章4節;11章3-4節など)
  • 神の言うこと・成すことを邪魔したり非難したりする(参考:創世記3章1-6節;ヨブ記1-2章;ゼカリヤ書3章など)
  • キリスト・イエスを信じる者たちが迫害を受けて苦しむように仕向ける(参考:ペテロの手紙第一5章9節;ヨハネの黙示録2章9節)
  • 悪霊たちが人々に取りついて苦しめる(例:マルコの福音書1章21-28節;5章1-20節; 7章24-30節;9章14-29節など)

このように、色々な方法で神の計画を妨害しようとする悪魔・悪霊たちですが、その力には限界があることもみました。

その理由としては以下のような事柄が挙げられます。

  • 悪霊のかしらである悪魔(サタン)ですら神の許しがなければ何もできない(ヨブ記1章12節;2章6節)
  • 悪霊(罪を犯した御使い)たちは罪を犯したためにつながれ閉じ込められている(ペトロの手紙第二2章4節;ユダの手紙6節)
  • イエスが十字架で死んだことによって悪魔の力が弱められ、その支配にあった人々が解放された(へブル人への手紙2章14-15節;比較:ヨハネの手紙第一3章8節)
  • 最終的に、神は悪魔に完全に勝利して悪魔を火と硫黄の池に投げ込む(ローマ人への手紙16章20節;ヨハネの黙示録20章10節)

最後に、忘れてはならないのが、

神は悪魔や悪霊が企てる様々な策略(悪)をも用いて、御自分の計画・目的を確実に実現する全知全能なお方

だということ。

天地万物の創造主である神は、被造物に過ぎない悪魔や悪霊たち(堕天使たち)とは全く次元が異なる存在

なのです(注記:神は天使たちは創造しましたが、悪魔や悪霊は創造していません。悪魔や悪霊たちは自らの倫理道徳的な判断に基づいて神に逆らった天使たちです)。

たとえ今現在、どんなに悪がはびこっているように見えたとしても、神の計画・目的は必ず達成される。

そのことを具体的な例として教えてくれるのがイエスの十字架です。

人間よりも力があって、ずるがしこくて、どうにかして私たちを神から引き離そうと企む悪魔・悪霊たちですが、創造主なる神を前にして悪魔・悪霊たちの敗北は決定しています。

しかも、子なる神イエスはイエスを信じる者といつも共にいてくださり(マタイの福音書28章20節)、聖霊なる神はイエスを信じる者の内に住んでくださっています(コリント人への手紙第一6章19節)。

私たちにできることは、

ただ神を信頼して、一つ一つの困難・苦難をイエス・聖霊と共に乗り越えていくことだけ

です(比較:ペトロの手紙第一5章8-11節)。

参考文献および注釈

  1. 特に記載がない限り、以降の聖書個所も同じく『聖書 新改訳2017』から引用。
  2. この箇所の記述が文字通りの意味ではなく比喩的な意味だと判断できる理由の一つとして、当時の人々がよく使っていた死後の世界の概念が用いられていることが挙げられます。詳細な説明は下記参考文献のペトロの手紙第二2章4節の注解を参照。Douglas J. Moo, 2 Peter, Jude, The NIV Application Commentary (Grand Rapids, Mich: Zondervan, 1997).
  3. 天使の特徴・能力について、興味のある方は下記のブログ記事を参照ください。「キリスト教(聖書)の天使とは?階級や性別、種類や特徴は?―天使の性質と役割―」
  4. 詳細は下記を参照。Leland Ryken, James C. Wilhoit, and Tremper Longman III, eds., “DEMONS,” Dictionary of Biblical Imagery (Downers Grove, Ill.: InterVarsity Press, December 1998), 202.
  5. ホセア書4章19節において、新改訳聖書で「風」と訳されている言葉は新共同訳聖書では「欲望の霊」即ち悪霊と訳されています。
  6. 詳細は下記を参照。Wayne A. Grudem, Systematic Theology: An Introduction to Biblical Doctrine (Downers Grove, Ill.; Grand Rapids, Mich.: InterVarsity Pr; Zondervan, 1994), 415.
  7. 詳細は下記を参照。L. L. MORRIS, “SATAN,” ed. D. R. W. Wood et al., New Bible Dictionary (Leicester, England ; Downers Grove, Ill: InterVarsity Press, December 1996), 1064.
  8. 詳細は下記を参照。R. H. Bell, “DEMON, DEVIL, SATAN,” ed. Joel B. Green, Jeannine K. Brown, and Nicholas Perrin, Dictionary of Jesus and the Gospels (Downers Grove, Ill.: IVP Academic, December 2013), 194; D. G. Reid, “SATAN, DEVIL,” ed. Gerald F. Hawthorne, Ralph P. Martin, and Daniel G. Reid, Dictionary of Paul and His Letters: A Compendium of Contemporary Biblical Scholarship (Leicester, England; Downers Grove, Ill: Inter-Varsity Pr; InterVarsity Pr, 1993), 863–864; C. E. Arnold, “SATAN, DEVIL,” ed. Ralph P. Martin and Peter H. Davids, Dictionary of the Later New Testament & Its Developments: A Compendium of Contemporary Biblical Scholarship (Downers Grove, Ill.: IVP Academic, June 2010), 1077–1078.
  9. J. H. Walton, “SATAN,” ed. Tremper Longman and Peter Enns, Dictionary of the Old Testament: Wisdom, Poetry & Writings (Downers Grove, Ill.: InterVarsity, 2008), 714.
  10. Bell, “DEMON, DEVIL, SATAN,” 193.
  11. 詳細は下記参考文献のマタイの福音書12章24節の注解を参照。R. T France, The Gospel of Matthew, The New International Commentary on the New Testament (Grand Rapids, Mich.: William B. Eerdmans Pub., 2007).
  12. 詳細は下記を参照。David E. Garland, Second Corinthians, The New American Commentary (Nashville, Tenn.: Broadman & Holman, 2000), 335.
  13. 具体的には、イザヤ書14章12-15節が「サタンの堕落」を意味しているという(誤った)解釈、そして14章12節の「明けの明星」がラテン語で「ルシファー」と訳されたことが深く関係しています。詳細な説明は下記参考文献のヨブ記1章の注解内"Bridging Contexts - Theological Issues - Isaiah 14:12-15"を参照。John H. Walton, Job (Grand Rapids, Mich.: Zondervan Academic, 2012).
  14. ただし、「歴史的な経緯」もあって、1611年に訳された英語の欽定訳聖書(King James Version)にはLuciferという言葉が一度だけ用いられています(イザヤ書14章12節)。
  15. 詳細は下記を参照。Millard J Erickson, Christian Theology, 3rd ed. (Grand Rapids, Mich.: Baker Academic, 2013), 417.
  16. 詳細は下記を参照。Arnold, “Dictionary of the Later New Testament & Its Developments,” 1079–1080.
  17. 詳細は下記を参照。Ryken, Wilhoit, and Longman III, “DEMONS,” 203.
  18. Arnold, “Dictionary of the Later New Testament & Its Developments,” 1080.
  19. 詳細は下記を参照。ibid.
  20. 詳細な解説は下記を参照。Bell, “DEMON, DEVIL, SATAN,” 195–197.
  21. 詳細は下記を参照。Grudem, Systematic Theology, 415.
  22. 詳細は下記を参照。Arnold, “Dictionary of the Later New Testament & Its Developments,” 1079.
  23. 詳細な説明は下記を参照。Erickson, Christian Theology, 419.
  24. 神が悪(サタン)を用いて自分の計画を果たしていくことについて、イエスの十字架以外の例に興味がある方は、例えば下記を参照。Reid, “Dictionary of Paul and His Letters,” 865–866.
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