読みにくい聖書、どう読む?ー初心者向けの読み方・読む順番(後編)ー

前回の記事では、クリスチャンかどうかは関係なく

  • まだ一度も聖書を読んだことがない人
  • 読もうとは思ったけど途中で挫折してしまった人

を対象に実践的な聖書の「読み方・読む順番」を紹介しました。

読みにくい聖書、どう読む?ー初心者向けの読み方・読む順番(前編)ー
「聖書が読みにくい理由は何か?」を考えつつ、全体の話の流れをつかむことを念頭に実践的な聖書の「読み方・読む順番」を紹介します。聖書には興味があるけどまだ読んだことがない方、読んではみたけど途中で挫折してしまった方、是非お試しください。

今回はその後半部分となりますが、その前に前回の内容を簡単に振り返っておきます。

前回の記事において、聖書が読みにくい原因の一つとして、

聖書内の文書の並び方によって、聖書全体の話の流れがつかみにくくなっている

ことを挙げました。

そして、その打開策として私が提案したのは、聖書内に収められている書物を初めから順番に読むのではなく、

聖書全体の話の流れに直接関係のないところ(物語形式で書かれていないところ)は飛ばして読んでしまおう!

というもの。

具体的には、以下の順番で読むことをお勧めしました。

  1. 【新】マルコの福音書
  2. 【新】ヨハネの福音書
  3. 【新】ルカの福音書
  4. 【新】使徒の働き
  5. 【旧】創世記
  6. 【旧】出エジプト記(1-20章)
  7. 【旧】民数記(10章から最後まで)
  8. 【旧】申命記(1-4章と31-34章)
  9. 【旧】ヨシュア記(1-12章と23-24章)
  10. 【旧】士師記
  11. 【旧】ルツ記
  12. 【旧】サムエル記 第一
  13. 【旧】サムエル記 第二
  14. 【旧】列王記 第一
  15. 【旧】列王記 第二
  16. 【旧】エズラ記
  17. 【旧】ネヘミヤ記
  18. 【新】マタイの福音書

ここで、【新】は「新約聖書」、【旧】は「旧約聖書」を意味します。

括弧書きがある書物については、括弧内の箇所だけ読むことをお勧めします (括弧内の箇所が主に物語形式のところなっています。括弧内の箇所でも物語に直接関係なさそうな部分はどんどん飛ばしてみてください)。

なお、上記の文書を読む合間合間に、「息抜き」として旧約聖書の「箴言(しんげん)」を読むこともお勧めしました。

これらの文書を読むときに気を付けて頂きたいことは、以前のブログ記事「聖書に読み方はある?読む時の注意点は?③」で紹介した以下の6つ。

  1. 神からの語りかけと助けに期待する(祈る)
  2. 聖書に描かれる世界と現代の私たちの世界との間に存在する様々な(時間的、空間的、社会的、文化的、歴史的)隔たりを認識する(「分からなくて当たり前」くらいの気持ちで、分からないところ・分かりにくいところを飛ばしながら読み進める)
  3. 現代の私たちの「常識」「価値観」の枠組みで聖書を読もうとしない(現代の私たちの抱く疑問[特に科学的な疑問]全てに聖書が答えてくれるとは限らない)
  4. 可能な限り、当時の人々の状況・問題を想像しながら、文脈に沿って、聖書の作者がその当時読んで欲しいと思っていた読者に向けたメッセージ(の大枠)を読み取ろうとする
  5. 当時の人々の状況・問題と自分の現在の状況・問題が似ていると感じる箇所はじっくり重点的に読み進める
  6. 神やイエスが登場する箇所ではもちろん、神やイエスが出て来ない場面であっても、常に「神・イエスについて分かることは何か?」「神・イエスが望んでいることは何か?」ということを意識しながら読む

上記18の書物を一通り読み終えると、恐らくは、聖書全体における以下の大きな話(神が人を救う物語)の大筋が自分なりにつかめてくると思います。1

  1. 神が人も含めた天地万物を造った。
  2. しかし、人が神に従わなかったため、様々な問題が発生した。
  3. その問題の根本解決(救い)として、神の子イエスが地上に来て十字架にかかり、死んで復活し、天に昇った。
  4. イエスが再びやって来て、全てを正しく裁き、新しい天地が創造され、神の計画が完全に果たされる。

ここまでが前回の内容。

今回は、上記18の書物を読んだ後でもまだ手つかずになっている聖書内の残りの書物について、どこからどう読めば良いかを考えます。

今回の話の流れ(目次)は以下の通り。

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読みにくい聖書の読み方・読む順番(後編)

手紙(書簡)は教会(人生)問題の参考書

冒頭で紹介した18の書物を読むことで、聖書内の物語形式で書かれている部分をほぼ読破してしまい、聖書全体における大きな話(神が人を救う物語)の流れが何となくつかめてきたという方。

そんな人に次にお勧めしたいのは、新約聖書にたくさん収められている「手紙(書簡)」です。

というのも、「手紙(書簡)」は基本的に筋道を立てて書いてありますし(話が脱線する箇所も無くはないですが)、キリスト教のいわゆる「教理」「教え」といったものを直接的に教えてくれるものだからです。

とはいえ、「手紙(書簡)」は元々、学校の授業のように、キリスト教の「教理」を体系立てて教えようとして書かれてはいません。

むしろ、

手紙(書簡)は、その当時、ある特定の場所の人々が抱えていた宗教的・倫理道徳的な問題に対して、キリスト教的な解決策を指し示すために書かれたもの

です。

しかも、聖書内の手紙(書簡)の順番は基本的に「同一作者で分量(ページ数)の多い順」になっています。

つまり、書かれた時代もバラバラですし、宛先も様々ですから、隣り合っている手紙(書簡)同士の内容が関係しているとは限りません(宛先が同じもので「第一」「第二」などと書かれている手紙(書簡)同士であれば多少のつながりは存在します)。

複数の手紙(書簡)を読むと重複する内容の箇所もあれば、ある事柄に対する見解が一見すると矛盾(発展!?)しているように取れる部分も存在します。

従って、

新約聖書の手紙(書簡)を最初から順番に読んでいったとしても、キリスト教の「教理」「教え」をすんなり理解できる訳ではありませんし、教えの全てを網羅できる訳でもありません。
ということは、どこから読んでも良いってこと!?

となりますが、実際、「その通り」です。

ただ、手紙(書簡)を読む時に一番大事なのは、

その手紙(書簡)が宛てられた人々がどのような問題・状況に直面していたかを理解し、自分(もしくは知り合い)が現在直面している問題・状況と比べてみること。

そして、当時の人々の問題・状況と自分(もしくは知り合い)の現在の問題・状況が近ければ近いほど、そこに書かれているメッセージが訴えかけてくるものは大きいと思います。

ちなみに、このことは冒頭で紹介した読む時の「心構え」「注意点」の一つ(下記に引用)でもあります。

  • 当時の人々の状況・問題と自分の現在の状況・問題が似ていると感じる箇所はじっくり重点的に読み進める

とはいえ、手紙(書簡)が宛てられた人々がどのような問題・状況に直面していたかを理解することは簡単なことではありません。聖書以外の参考書に頼る必要があります。

ので、参考まで、以下に「当時の問題・状況」「強調点」を簡潔にまとめたものを記しておきます。2

手紙の名称当時の問題・状況強調点
ローマ人への手紙ユダヤ人のクリスチャンと異邦人のクリスチャンとの間の文化的違いがイエスを信じる信仰生活にも違いを生じさせ、両者の間に緊張関係が生まれていた・ユダヤ人も異邦人も一つの神の民
・キリストを通した神の救いにおけるユダヤ人の役割
・イエス・キリストを信じることで得られ、かつ聖霊によってもたらされる恵みによる救い
・真の義を生じさせるのは律法ではなく聖霊
・神の民として、この世で一致して生きるための (聖霊による)心の変革の必要性
コリント人への手紙第一社会における多様なグループ(富裕層や労働者層など)間の対立する価値観が教会内に不和をもたらしていた・福音の中心的メッセージとしての十字架に架けられたメシア(救い主)
・神の知恵と力としての十字架
・福音にふさわしいクリスチャンの振る舞い
・聖霊が共にいる生活の本質
・亡くなったクリスチャンの肉体をもった復活
コリント人への手紙第二パウロに対立するグループが出現し、(教会の)働き・奉仕に関する意見が対立していた・キリストに倣った仕える者としてのクリスチャンの働き・奉仕
・新しい契約の素晴しさ
・聖職者・奉仕者の弱さに表れる福音の素晴しさ
・和解の福音
・義務感ではなく寛容な心から行う貧しい人々への援助
ガラテヤ人への手紙パウロに対立するユダヤ人のクリスチャングループが出現し、ガラテヤに住む人たちに自分たちの文化(律法を守り割礼を施すこと)を押し付けようとしていた・神とキリストから直接与えられた使徒してのパウロの権威および福音
・倫理的宗教的律法の順守に終止符をもたらしたイエスの死
・律法ではなく聖霊がもたらす義
・罪深い欲望に抗う力を与える聖霊
・キリスト・イエスへの信仰を通して与えられる聖霊
エペソ人への手紙・教会内のユダヤ人と異邦人の間に人種的または文化的対立が存在していた
・クリスチャンが少ない地域にあって、クリスチャンとして社会で模範的な生活をすること、また異教の影響(魔術や占星術など)に惑わされないように生活することを伝える必要があった
・全宇宙に及ぶキリストの偉業
・十字架によってもたらされたユダヤ人と異邦人との和解
・「全ての支配・権威」に対するキリストの絶対的権力と教会の関係
・聖霊による一致を表すクリスチャンの振る舞い
ピリピ人への手紙・教会が直面するであろう将来的な迫害に備えるために協同を呼びかける必要があった
・教会内に対立が生じていた
・福音を通したパウロとピリピの教会の協力関係
・人生の全てのカギとしてのキリスト
・他者のために身を犠牲にすること(キリストの死に表されている)でキリストのようになりキリストを知ることの大切さ
・困難の中でもキリストにあって喜ぶことの重要性
・謙遜と愛がもたらす一致
・最終的に与えられる賞・褒美の確信と追及
コロサイ人への手紙(フリジア[小アジアの古代王国]の文化の影響を受けた)ユダヤ教の神秘的または啓示的側面に傾倒していたクリスチャンがいた・神の子キリストの絶対的権力と十全性
・罪を赦し、「全ての支配・権威」の脅威から解放するキリスト
・宗教的な規則や決まりではなく、神のかたちを体現する倫理的生活が重要
・あらゆる種類の関係性に影響を与えるキリストのような生き方
テサロニケ人への手紙第一(死傷者も出ていたと思われる)迫害を受けていた教会に対して、将来に対する希望を持つように励ます必要があった・テサロニケに住む友人に対するパウロの心温まる配慮
・苦しみはクリスチャンの生活の一部
・淫らな行いに対して身を聖なるものとして保つべきこと
・他人の施しに溺れず自ら働くことの必要性
・死んでしまったクリスチャンの復活
・キリストが再び来ることへの備え
テサロニケ人への手紙第二「将来に対する希望」に関するパウロのメッセージ(特に「主の日」について)を誤って理解している人々がいた・テサロニケの人々に対する確かな救いと迫害者に対する確かな裁き
・主の日はまだ来ておらず、その前にまず「背教」が起こること
・怠けたりおせっかいばかりしている人たちは食べるために働くべきこと
テモテへの手紙第一テモテの住むエペソにおいて、律法に基づく禁欲主義を教える偽教師たちがパウロと彼の仲間の働きを妨げていた・全ての人々に表された神の憐れみとしての福音の真理
・教会の指導者の持つべき資質
・教会の指導者にふさわしくないのは、誤った教えを説く者、禁欲主義、論争好き、お金好き
・(テモテに対して)福音に堅く立って、真のクリスチャンの資質とリーダとしての模範を示すことの重要性
テモテへの手紙第二パウロに敵対する人たちの影響力が増し、パウロ自身も処刑を間近に控えている中、教会の外からの迫害や内からの誤った教えに対して、聖書の教えに忠実であることをテモテに教える必要があった・「死を滅ぼし、福音によっていのちと不滅を明らかに示された」(1章10節)キリストの救いの業
・苦しみや困難を耐え忍びキリストに従うべきこと
・(テモテに対して)パウロとの長い友情を思い起こし苦しみを共にしてほしいこと
・福音のメッセージを述べ伝える・教えることに対する忠実さ
・誤った教えの広がりに注意すること
・キリストに従う者に対する最終的な救い
テトスへの手紙誤った教えがテトスの住むクレタの教会に広がっていた・神の民(特に教会の指導者たち)は素晴らしい人格と行いを兼ね備えるべきこと
・ユダヤ教の律法に根差した誤った教えに対抗する恵みの福音
ピレモンへの手紙ローマの法律に従ってピレモンの奴隷オネシモを送り届けるにあたり、オネシモの奴隷の身分を解くようにパウロがピレモンとの友好関係に訴えかけている人々を和解に導く福音(ユダヤ人と異邦人だけでなく奴隷とその主人さえも皆が兄弟となる)
へブル人への手紙キリストが成した御業が実質的に否定され、クリスチャンとしての信仰生活から離れていく人が増えていた3・神は、御子イエスにあって、語るべきことを全て語り尽くしていること
・キリストを捨てることは神を捨てることに等しいこと
・キリストはそれ以前にあったもの(古い啓示、天使たち、モーセやヨシュアによる出エジプト、祭司制度など)全てに勝っていること
・神の民は、全ての人を神に導く御子イエスに絶対の信頼を置くことができること
ヤコブの手紙ローマ帝国内の社会状況に不満をもったユダヤ人クリスチャンが多くなっていた(最終的には紀元66-73年のユダヤ戦争へとつながる)・信仰者としての実践的な信仰
・試練における喜びと忍耐
・真の(クリスチャンの)知恵の性質
・富める者の貧しい者に対する態度
・舌を制すること(誤った言葉遣いと適切な言葉使いについて)
ペテロの手紙第一ローマ帝国によるローマに住むクリスチャンへの迫害が増してきていた中、皇帝崇拝の影響の強い小アジアに住む(主にユダヤ人)クリスチャンたちに対して、事前に警告する必要があった・義のために苦しむことは驚くべきことではないこと
・キリストと同じく、クリスチャンもまた不当な苦しみに耐えるべきこと
・キリストは私たちを罪から解放するため、私たちの代わりに苦しまれたこと
・神の民はいつ如何なる時も、敵意を前にしたときには特に、正しく生きるべきこと
・私たちの将来の希望はキリストの復活の確かさに基づいていること
ペテロの手紙第二クリスチャンの地域社会に偽教師が現れていた4・神の民が敬虔深く生活しているかどうかの気遣い
・不敬虔な生活をしている偽教師たちには確かな裁きがあること
・偽教師が「イエスは再び来るはずがない」と嘲っていたとしても、イエスは確かに再び来られること
ヨハネの手紙第一手紙の宛て先となっているクリスチャンの地域共同体を離れた人たちが、誤った教えによって共同体内の人々を惑わしていた・肉体をもって世に来たイエスが神の子であること
・神が人となりイエスとして世に来られ、十字架にかかることによって、私たちに対する愛を示されたこと
・神がキリストにあって私たちを愛してくださったように、真のクリスチャンもまた互いに愛し合うべきこと
・神の子たちは常習的に罪を犯さず、たとえ罪を犯したとしても、罪の赦しを得ることができること
・クリスチャンは彼らを愛してくださる神に絶対的な信頼を置くことができること
・キリストを信じることで永遠のいのちを持つこと
ヨハネの手紙第二ヨハネの手紙第一に同じヨハネの手紙第一の「強調点」を参照
ヨハネの手紙第三使徒ヨハネの支持する人々を受け入れないディオテレペスという人物に対する注意を喚起する必要があったクリスチャンとして、人々(特に公認された巡回聖職者たち)を受け入れ、もてなすべきこと
ユダの手紙肉欲にふけり、傲慢な態度で教える偽教師の影響力が増してきていた・不敬虔に生きながら、人々にも同じ生き方をするように教える人々には確かな裁きがあること
・聖なる生き方の重要性
・神は敬虔な者を愛し保ってくださること

上表を参考にしながら、御自分の現在の状況・問題にあっていそうなもの、もしくは単純に興味が引かれるものから順番に読み進めてみください

ここでの主な原則は、冒頭で紹介した「心構え」「注意点」にあったように

  • 可能な限り、当時の人々の状況・問題を想像しながら、文脈に沿って、聖書の作者がその当時読んで欲しいと思っていた読者に向けたメッセージ(の大枠)を読み取ろうとする

ことです。

残りの物語と知恵文学を読む

さて、ここまでの段階で、まだ読んでいないのは以下の文書になります。

【旧約聖書】

  • 出エジプト記(21章以降)
  • レビ記
  • 民数記(1-9章)
  • 申命記(5-30章)
  • ヨシュア記(13-21章)
  • 歴代誌 第一
  • 歴代誌 第二
  • エステル記
  • ヨブ記
  • 詩篇
  • 伝道者の書(新共同訳では「コヘレトの言葉」)
  • 雅歌
  • イザヤ書
  • エレミヤ書
  • 哀歌
  • エゼキエル書
  • ダニエル書
  • ホセア書
  • ヨエル書
  • アモス書
  • オバデヤ書
  • ヨナ書
  • ミカ書
  • ナホム書
  • ハバクク書
  • ゼパニヤ書
  • ハガイ書
  • ゼカリヤ書
  • マラキ書

【新約聖書】

  • ヨハネの黙示録

この中で、次に読むのを勧めるとすれば、やはり物語形式の「歴代誌 第一」と「歴代誌 第二」、そして「エステル記」です。

「歴代誌 第一」および「歴代誌 第二」については、前回の記事に書きましたように、「サムエル記」と「列王記」の内容に重複するところがあります。が、宗教儀礼を司っていた祭司やレビ族の視点から(新しく)書かれたものです。 3

このため、サムエル記や列王記とは違った趣きがあるはずです。なお、歴代誌第一の1-9章までは基本的に「系図」が記されていますので、初めて読む時には読み飛ばして構わないと思います(もちろん、系図に出て来る人物名から、これまでに読んだイスラエルの歴史を思い起こすのも良いと思います)。

「エステル記」は聖書の中でよく見かける「神」とか「主」いう言葉が一切出て来ない珍しい書物です。が、その内容は神の働きを抜きにしては説明がつかないであろうことばかりが描かれています。

ですから、冒頭で紹介した「心構え」「注意点」の中でも特に

  • 神やイエスが登場する箇所ではもちろん、神やイエスが出て来ない場面であっても、常に「神・イエスについて分かることは何か?」「神・イエスが望んでいることは何か?」ということを意識しながら読む

ことに留意してください。

その次に読みやすいものとしては、恐らく、「ヨブ記」と「伝道者の書(コヘレトの言葉)」辺りだと思います。この二つは、前回の記事で「箴言」を読むことをお勧めしたときに紹介したように、「知恵文学」と呼ばれるジャンルに属します。

聖書における「知恵文学」というのは、「知恵(人生において神の望む選択・決断をする能力)」を養う助けとなる文書です。4

ヨブ記も伝道者の書(コヘレトの言葉)も、その内容は結構悲観的で、読んでいると気分が沈みがちになるかもしれません。が、

こういう内容の書物が聖書にもあるんだなぁ

という感覚で読み進めてもらえると思います。

ただし、ヨブ記と伝道者の書(コヘレトの言葉)を読む時に特に注意して頂きたいのは、「文脈に沿って」読むことです。

言い換えれば、「一日に一章だけ読む」という感じで読んでいくと、まず間違いなく全体の文脈・内容を忘れてしまい、内容を誤解してしまう恐れがあります。5

是非とも最初から最後まで一気に読むくらいの勢いで読むようにしてください。でないと、作者の意図するメッセージを見失ってしまうであろうほどに「癖のある」文書だと思います。

律法・詩歌・預言書・黙示録は中上級者向け

以上で、私が対象としている

  • まだ一度も聖書を読んだことがない人
  • 読もうとは思ったけど途中で挫折してしまった人

に対するおススメ聖書個所は終わりです。

なぜなら、残っている文書は正直、初めて読むには非常に難しい(読むためにはそれなりの忍耐力と知識量が必要)ものばかりだからです。

が、せっかくここまで聖書内の書物を紹介してきましたので、これで終わりというのも少し寂しい(?)気がします。ので、参考まで、残りの書物をジャンル別に紹介しておきます。

あくまでも大枠としてですが、以下のようになります(厳密ではありません)。

【律法】

  • 出エジプト記(21章以降)
  • レビ記
  • 民数記(3-9章)
  • 申命記(5-30章)

【一覧表(Lists)】

  • 民数記(1-2章)
  • ヨシュア記(13-21章)

【詩歌】

  • 詩篇
  • 雅歌
  • 哀歌

【預言書】

  • エレミヤ書
  • エゼキエル書
  • ダニエル書
  • ホセア書
  • ヨエル書
  • アモス書
  • オバデヤ書
  • ヨナ書
  • ミカ書
  • ナホム書
  • ハバクク書
  • ゼパニヤ書
  • ハガイ書
  • ゼカリヤ書
  • マラキ書

「律法」も「一覧表(Lists)」も聖書が書かれた当時の人々にとっては欠かすことのできない、非常に大事な内容でした。が、実質、現代の私たちに直接関係するものは多くありません(ただし、そのような箇所からでも「神・イエスについて」読み取れることは多いです)。6

このため、初めて聖書を読もうとする人には、かなりの忍耐がいる箇所だと思います。

「詩歌」については、確かに、一見すると読みやすそうな気がします。が、日本の「詩歌」を読む(嗜む)にもある程度の文学的知識(韻の踏み方や比喩的表現など)が必要であるように、ユダヤ人の「詩歌」を読む(嗜む)にもそれなりの文学的知識が必要です。7

また、文学的な知識だけでなく、イスラエル民族の歴史を題材にした詩歌がかなりの数ありますので、歴史的背景を知っておくことも大事になってきます。

さらに、「詩篇」や「哀歌」に関しては、神を信じている人が自分の信仰体験を基にしながら(神に対して)謳ったものです。このため、まだ神のことがよく分からない人や神を信じていない人には理解が難しいところがたくさんあると思います。

という訳で、これらもまた、初めて読む人は手こずる内容だと思います。

「預言書」に分類される文書についても、実情は「詩歌」に似ています。というのも、預言書の多くは「詩歌」の形式で書かれているからです。8

詩歌と大きく異なる点としては、詩歌以上にイスラエルの歴史を土台にした内容になっていること。このため、もし預言者を読もうと思われるのであれば、同じ年代に書かれた(と推定される)ものを一緒に読んだ方が理解の助けとなると思います。

参考まで、前回のブログ記事に挙げた表から、預言書関連のところを抜粋して再掲しておきます。

時代(紀元前)主な登場人物主な関連国・地域聖書箇所
(物語形式)
聖書個所
(預言書)
700
【北イスラエル王国
滅亡期】
イザヤアッシリア列王記第二19-20章イザヤ書、
ホセア書、
ヨエル書、
アモス書、
オバデヤ書、
ヨナ書、
ミカ書
600
【南ユダ王国
滅亡期】
エレミヤバビロニア列王記第二の終盤
(歴代誌第二の終盤)
エレミヤ書、
哀歌、
エゼキエル書、
ナホム書、
ハバクク書、
ゼパニヤ書
400
【バビロン捕囚
からの帰還時代】
エズラ
ネヘミヤ
エステル
ペルシアエズラ記
ネヘミヤ記
エステル記
ダニエル書、
ハガイ書、
ゼカリヤ書、
マラキ書

最後に残ったのは、聖書の一番最後に収められている「ヨハネの黙示録」となります。

が、ヨハネの黙示録については、結構有名だと思いますので、実際に読んでみた(読もうとした)ことがある方は多いのではないかと思います。そして、途中で挫折してしまった人が多いのもこの書物だと思います。

途中で挫折してしまう一番の原因は、恐らく、使われている比喩的表現が多いことでしょう。次から次へと想像しがたい出来事が記されているため、どのように解釈・理解して良いのかが分からなくなってしまいます。

論より証拠、ホンの一例を挙げると、ヨハネの黙示録の1章16節に次のように書いてあります。

また、右手に七つの星を持ち、口から鋭い両刃の剣が出ていて、顔は強く照り輝く太陽のようであった。【ヨハネの黙示録1章16節】

出典:新日本聖書刊行会『聖書 新改訳2017』(いのちのことば社、2017年)〈新〉492頁

これは作者であるヨハネが見た人物の姿を描写した箇所です。

が、

「右手に七つの星を持ち」、
「口から鋭い両刃の剣が出ていて」、
「顔は強く照り輝く太陽のようであった」

という表現の一つ一つが比喩的表現となっています。

そして、このような比喩的表現が嫌というほど出てきますので、もう正直、訳が分かりません(理解するためには当時の文学形式や文化的・歴史的背景はもちろん、旧約聖書の知識が不可欠です)。

ですから、初めて聖書を読もうとする人に対して、ヨハネの黙示録を読むことはお勧めしません。9

聖書の他の書物を全て読んだ上で、一番最後に

聖書ってやっぱり(?)不思議な書物だなぁ

という感じで読むのがちょうど良いと個人的には思います。

まとめ

今回は実践的な聖書の「読み方・読む順番」についての後編で、対象としているのは以下の二つのタイプの人(クリスチャンかクリスチャンでないかは問いません)。

  • まだ一度も聖書を読んだことがない人
  • 読もうとは思ったけど途中で挫折してしまった方

前回の記事では聖書内の物語形式の箇所を最初に読むことを勧めましたので、今回は主に「聖書内で物語形式でない箇所をどのような順番でどう読めばよいか?」がテーマでした。

聖書内の物語形式の部分を一通り読んだ後で読むのをお勧めしたいのは、新約聖書に収められている「手紙(書簡)」です。

しかしながら、聖書に収められている「手紙(書簡)」の順序は内容との関連性がほぼありませんので、最初から順番に読んでいくことはお勧めしません。

その代わりに、

手紙(書簡)が書かれた当時と自分(または知り合い)の置かれている現在の問題や状況を比較して、問題や状況が近そうと思われるものから読んでみる

ことを勧めました。

その比較検討の助けとなるであろう一覧表を本文内「手紙(書簡)は教会(人生)問題の参考書」に記していますので、興味のある方はご参照ください。

一覧表にはそれぞれの手紙(書簡)の「強調点」も記してありますので、「強調点」に記されているものの中で、興味のあるものから読み進めるのもよいと思います。

「手紙(書簡)」の次に勧めたのは、物語形式ではあってもまだ読んでいなかったもの、および「箴言(しんげん)」以外の「知恵文学」です。即ち、

  • 【旧】歴代誌 第一
  • 【旧】歴代誌 第二
  • 【旧】エステル記
  • 【旧】ヨブ記
  • 【旧】伝道者の書(コヘレトの言葉)

【旧】は旧約聖書を指します。

それ以外の書物については、正直、初めて聖書を読む人および聖書を読もうとして挫折したことがある人に読むことはお勧めしません

まずは、これまで紹介した書物を何度か繰り返して読んでみてください

その上で、「大分聖書にも慣れてきたし、もっと聖書の中身を知りたい!」と思えるようになったとすれば、是非とも残りの書物も続けて読んでみてください。

なお、参考まで、残りの書物を読む時の注意点を挙げると次のようなものが考えられます。

「詩歌」に分類される「詩篇」「哀歌」「雅歌」を読む時には、イスラエルの歴史に関する知識とユダヤの詩歌に関する文学的手法を学んでからの方が、より深くその内容を味わうことができまるはずです。

「預言者」に分類される書物に関しては、イスラエルの歴史に関する知識は必須ですので、できるだけ同じ時代に書かれた書物を一緒に読むようにすると理解の助けになると思います(どの書物がいつ頃書かれたかについては、本文内「律法・詩歌・預言書・黙示録は中上級者向け」の表をご参照ください)。

以上、初めて聖書を読む人および読もうと思ったけど挫折してしまった人を対象に、聖書の読み方・読む順番についての私の個人的な意見を記しました。

繰り返しになりますが、

この記事の内容は聖書の中に読む必要がない箇所があると言っている訳ではありません。

あくまでも、

まずは聖書の内容に慣れてもらうため、聖書の大きな話の流れをつかんでもらうため、個人的に読みやすいと思う順番・箇所とその読み方を提案している

に過ぎません。

その趣旨からして、聖書を読む時に是非とも気を付けて欲しいことは

可能な限り、当時の人々の状況・問題を想像しつつ、文脈に沿って、分からない所は飛ばしながら「神・イエスについて分かることは何か?」を読み取ろうとする

ことです。その中で、

もし当時の人々と自分の現在の状況・問題が似ていると感じる箇所、または自分の心にやけに引っかかるところがあれば、そういう箇所をじっくり読み進める

ことが大事だと思います。

聖書を通して、私たちの造り主なる神からの語りかけを聞き取ることができますように。

参考文献および注釈

  • Carson, D. A., and Douglas J. Moo. An Introduction to the New Testament. 2nd edition. Grand Rapids, Mich.: Zondervan, 2005.
  • Fee, Gordon D., and Douglas K. Stuart. How to Read the Bible Book by Book: A Guided Tour. Grand Rapids, Mich.: Zondervan, 2002.
  • ———. How to Read the Bible for All It’s Worth. Vol. 3d ed. Grand Rapids, Mich.: Zondervan, 2003.
  • Keener, Craig S. The IVP Bible Background Commentary: New Testament. First edition. Downers Grove, Ill.: IVP Academic, 1994.
  • Klein, William W., Craig L. Blomberg, Robert I. Hubbard Jr, and & 1 more. Introduction to Biblical Interpretation, Revised Edition. Revised & Updated. Nashville, Tenn.: Thomas Nelson, 2004.
  • 浅見定雄. 旧約聖書に強くなる本. 日本基督教団出版局, 1977.
  1. 詳細は下記を参照。Gordon D. Fee and Douglas K. Stuart, How to Read the Bible Book by Book: A Guided Tour (Grand Rapids, Mich.: Zondervan, 2002), 14–20.
  2. 下表において、「当時の問題・状況」欄の脚注が無いものについては下記の文献を参照。Craig S. Keener, The IVP Bible Background Commentary: New Testament, First edition. (Downers Grove, Ill.: IVP Academic, 1994); 「強調点」欄については下記の文献を参照。Fee and Stuart, How to Read the Bible Book by Book.
  3. 詳細は下記を参照。浅見定雄, 『旧約聖書に強くなる本』 (日本基督教団出版局, 1977年), 117–123頁.
  4. 詳細は下記を参照。Gordon D. Fee and Douglas K. Stuart, How to Read the Bible for All It’s Worth, vol. 3d ed. (Grand Rapids, Mich.: Zondervan, 2003), 233.
  5. ヨブ記と伝道者の書(コヘレトの言葉)の文脈を無視して読んでしまったために生じる誤った解釈の具体例について、例えば、下記を参照。ibid., 3d ed.:234–235.
  6. 「律法」および「一覧表(Lists)」の読み方について、興味のある方は下記を参照。William W. Klein et al., Introduction to Biblical Interpretation, Revised Edition, Revised & Updated. (Nashville, Tenn.: Thomas Nelson, 2004), 339–351.
  7. 聖書内の「詩歌」の読み方について、興味のある方は下記を参照。ibid., 273–319.
  8. 「預言書」の読み方について、興味のある方は下記を参照。ibid., 359–387.
  9. 「ヨハネの黙示録」の読み方について、興味のある方は下記を参照。Fee and Stuart, How to Read the Bible for All It’s Worth, 3d ed.:258–273.
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