分厚い聖書、何が書いてある?ー初心者にも分かる簡単な内容解説ー

キリスト教の聖典である聖書は知る人ぞ知る世界のベストセラー

その総発行部数は「50億(以上)」とされ、「ベストセラー書籍:ノンフィクション部門(Best-selling book of non-fiction)」でギネス世界記録となっています。1

が、しかし、その内容を実際に知っている人は非常に少ないのが実情でしょう。その理由の一つとしては聖書の分厚さが挙げられると思います。

というのも、日本語訳の聖書は2100頁を超える大作。「一晩で一気に読み切る」という訳にはなかなかいきません。

という訳で、今回はまだ聖書を一度も読んだことが無い人を対象に、一晩はもちろん、(興味の度合いによって)2-3分から20-30分で一気に読み切れる聖書の内容解説を試みます。

なお、今回の内容を踏まえた上で下記ブログを参照しながら聖書を読んで頂くと、聖書の内容理解が更に深まると思います。

読みにくい聖書、どう読む?ー初心者向けの読み方・読む順番(前編)ー
「聖書が読みにくい理由は何か?」を考えつつ、全体の話の流れをつかむことを念頭に実践的な聖書の「読み方・読む順番」を紹介します。聖書には興味があるけどまだ読んだことがない方、読んではみたけど途中で挫折してしまった方、是非お試しください。
読みにくい聖書、どう読む?ー初心者向けの読み方・読む順番(後編)ー
聖書には興味があるけどまだ読んだことがない方、読んではみたけど途中で挫折してしまった方を対象にした実践的な聖書の「読み方・読む順番」の後編。「律法」はもちろんヨブ記や詩篇、「預言書」に「黙示録」等。読むべきか、読まざるべきか、それが問題です。

今回の話の流れ(目次)は以下の通り。

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聖書の構成:旧約聖書と新約聖書

皆さんが本屋に入って気になる本の概要を知ろうとするとき、恐らく一番最初にその本の目次を見ると思います。

聖書にも、もちろん(とはいえ、後世の人が付けたものですが)、目次は存在しています。そして、目次を見ると大きく「旧約聖書」と「新約聖書」の二つに分かれているのに気付かれると思います。2

この旧約聖書と新約聖書について、ごく簡単にいうと、

  • 旧約聖書は「古い契約」にまつわる文書集
  • 新約聖書は「新しい契約」の基礎をなす文書集
  • 古い・新しい「契約」とは「神と人とが結んだ契約(covenant)」

のこと。3そして、「神と人とが結んだ契約」の大枠は、

神が人々の神となり、人々が神の民となる

というもの(参照:出エジプト記6章2-8節、エレミヤ書31章33節)。

でも、なぜ新旧二つの契約があるかというと、

イスラエルの民(ユダヤ人たち)が神に従わなかったために古い契約が破棄され、よりすぐれた新しい契約が結ばれたから(参照:へブル人への手紙8章6-9節)。

そして、

その新しく優れた契約の仲介者として立てられたのがキリスト教の開祖イエス・キリスト

という流れになります。ですから、別の言い方をすると

  • 旧約聖書はイエスが生まれる前に書かれたユダヤ教とキリスト教の聖典
  • 新約聖書はイエスが死んだ後に書かれたキリスト教独自の聖典

と言えます。

さて、旧約聖書の目次を見ると、以下の39の文書が収められていることが分かります(文書名は新改訳聖書を参照)。

  1. 創世記
  2. 出エジプト記
  3. レビ記
  4. 民数記
  5. 申命記
  6. ヨシュア記
  7. 士師記
  8. ルツ記
  9. サムエル記 第一
  10. サムエル記 第二
  11. 列王記 第一
  12. 列王記 第二
  13. 歴代誌 第一
  14. 歴代誌 第二
  15. エズラ記
  16. ネヘミヤ記
  17. エステル記
  18. ヨブ記
  19. 詩篇
  20. 箴言
  21. 伝道者の書
  22. 雅歌
  23. イザヤ書
  24. エレミヤ書
  25. 哀歌
  26. エゼキエル書
  27. ダニエル書
  28. ホセア書
  29. ヨエル書
  30. アモス書
  31. オバデヤ書
  32. ヨナ書
  33. ミカ書
  34. ナホム書
  35. ハバクク書
  36. ゼパニヤ書
  37. ハガイ書
  38. ゼカリヤ書
  39. マラキ書

しかし、残念ながら、この目次を見ただけで内容が分かる人はまずいないと思います。

それもそのはず、基本的に目次に出て来くる文書名の多くは、その文書を書いた(とされている)人物、もしくはその文書内に出て来る主要な登場人物の名前がついているだけで、その内容との関りがある文書名は少ないからです。

文書の並び方の特徴として、聖書が書かれた当時のユダヤ人たちにとって、以下のように過去、現在、未来に関する事柄が順を追って並べられていると考えることができます。4

  • 創世記からエステル記までには、ユダヤ民族にまつわる過去の出来事(歴史)が書かれている
  • ヨブ記から雅歌までには、現在の生活に関係の深い詩歌や格言が書かれている
  • イザヤ書からマラキ書までには、これから起ころうとする未来の出来事が書かれている

新約聖書も似たような感じで、以下の27の文書が含まれています。

  1. マタイの福音書
  2. マルコの福音書
  3. ルカの福音書
  4. ヨハネの福音書
  5. 使徒の働き
  6. ローマ人への手紙
  7. コリント人への手紙 第一
  8. コリント人への手紙 第二
  9. ガラテヤ人への手紙
  10. エペソ人への手紙
  11. ピリピ人への手紙
  12. コロサイ人への手紙
  13. テサロニケ人への手紙 第一
  14. テサロニケ人への手紙 第二
  15. テモテへの手紙 第一
  16. テモテへの手紙 第二
  17. テトスへの手紙
  18. ピレモンへの手紙
  19. へブル人への手紙
  20. ヤコブの手紙
  21. ペテロの手紙 第一
  22. ペテロの手紙 第二
  23. ヨハネの手紙 第一
  24. ヨハネの手紙 第二
  25. ヨハネの手紙 第三
  26. ユダの手紙
  27. ヨハネの黙示録

新約聖書も旧約聖書と同じく、キリスト教徒たちにとって、以下のように過去、現在、未来に関する事柄が順を追って並べられているとみることができます。5

  • マタイの福音書から使徒の働きまでには、イエスとその弟子たちにまつわる過去の出来事(歴史)が書かれている
  • ローマ人への手紙からユダの手紙までには、現在の生活に関係の深い事柄が書かれている
  • ヨハネの黙示録には、これから起ころうとする未来の出来事が書かれている

以上が聖書の大枠・構成となりますが、次節では聖書全体(旧約聖書と新約聖書)の話の流れ・あらすじを紹介します。

聖書全体の話の流れ・あらすじ

聖書というのは数多くの作者が数百年にわたって書いた文書の集合体ですが、6 聖書全体を通して一つの大きな物語が書かれているとみることができます。その物語とは、

神が人を救う物語。7

その話の流れ・あらすじは以下のようになります(【】内の文書名は、該当する話が記されている箇所を示します)。8

  1. 神が天地万物を造る【創世記1-2章】
  2. 神に造られた人間が神に背く(神のようになろうとする)【創世記3章】
  3. 人間が神に背いた故に壊れてしまった神と人間の絆を神が回復しようとする
    1. 神はアブラハムと契約を結び、アブラハムとその子孫を通して全人類を祝福しようとされる【創世記12-50章】
    2. エジプトで奴隷となったアブラハムの子孫たち(イスラエル民族)を神がモーセを通して救い出される【出エジプト記1-18章】
    3. 神はエジプトから救い出したイスラエル民族と契約を結び、彼らを神の民とする代わりに彼らが守るべき掟・定めを与える【出エジプト記19章ー申命記】
    4. アブラハムに与えると約束した土地を神がヨシュアを通してイスラエル民族に占領させる【ヨシュア記】
    5. 神に従いきれないイスラエル民族(そんな中にも神に忠実な人たちがいたことが【ルツ記】に記されている)は他民族から圧迫を受けるが、神が立てた「さばきつかさ(士師)」によって救い出される(しかし、士師が死ぬと再び神に対して不従順になり、他民族から再び圧迫される、ということを繰り返す)【士師記】
    6. 神から遣わされた預言者サムエルによってダビデがイスラエル王国の王となり、神はダビデと契約を交わす【サムエル記】
    7. ダビデの後の王たちの多くは神に従わなかったため【列王記ー歴代誌】、神は事あるごとに預言者たちを送ってイスラエル民族に改心を促す【イザヤ書ーマラキ書】
    8. 神に立ち返らなかったイスラエルの王国は滅ぼされ(その悲しみを歌にしたものが【哀歌】)、ユダヤ人たちはバビロンに捕囚されてしまうが、ペルシア時代にはエルサレムに帰還することを許され神殿と城壁を再建する【エズラ記―ネヘミヤ記】
    9. 預言者たちを通して到来が予言されていた救い主(メシア)として、神の子イエス・キリストがこの世に来られ、イエスを信じ従うことで神と人間の絆が回復される道を切り開く【マタイの福音書ーヨハネの福音書】
    10. イエスの弟子たちが神の霊である聖霊の力を受け、各地でイエスのことを宣べ伝える【使徒の働き】
  4. 将来的にイエスが再びやって来て、全てを正しく裁き、新しい天地が創造され、神が人を救う物語が完結する【ヨハネの黙示録20-22章】

なお、上記の話の流れに直接的な影響を(ほぼ)与えない文書が聖書内にはまだ残っていますので、次節では、それらの文書の内容を簡単に紹介します。

聖書全体の話の流れに直接的な影響を(ほぼ)与えない文書の内容

前節で紹介した聖書全体の話の流れ・あらすじに直接的な影響を(ほぼ)与えない書物は以下になります。

  • 【旧約聖書】
    • エステル記
    • ヨブ記
    • 詩篇
    • 箴言
    • 伝道者の書
    • 雅歌
  • 【新約聖書】
    • ローマ人への手紙
    • コリント人への手紙 第一
    • コリント人への手紙 第二
    • ガラテヤ人への手紙
    • エペソ人への手紙
    • ピリピ人への手紙
    • コロサイ人への手紙
    • テサロニケ人への手紙 第一
    • テサロニケ人への手紙 第二
    • テモテへの手紙 第一
    • テモテへの手紙 第二
    • テトスへの手紙
    • ピレモンへの手紙
    • へブル人への手紙
    • ヤコブの手紙
    • ペテロの手紙 第一
    • ペテロの手紙 第二
    • ヨハネの手紙 第一
    • ヨハネの手紙 第二
    • ヨハネの手紙 第三
    • ユダの手紙

エステル記

旧約聖書の「エステル記」の時代背景はペルシアの王クセルクセスの時代(エステル記1章1節)。それは即ち、バビロンによって捕囚されていたユダヤ人たちがペルシア王によってエルサレムに戻ることが許され、エルサレムで神殿を建築しようとしていた時代です(比較:エズラ記4章6節)。

その話の概要は、

ペルシアで王妃となったユダヤ人エステルと彼女の養父モルデカイが、絶滅の危機に瀕したユダヤ人たちを救い出すことに成功し、そのことを記念して「プリム」と呼ばれる祭りを祝うようになった

というものです。9

ヨブ記、詩篇、箴言、伝道者の書、雅歌

ヨブ記、詩篇、箴言、伝道者の書、雅歌という5つの書物には、イスラエル民族の歴史に深く関わってこられた神に対する人間の側の「現在的応答」(神への感謝や現状に対する嘆きなど)が記されていると言えます。10

具体的には、以下のような内容になっています。

  • ヨブ記:正義を行う神がいるならなぜ正しい人が苦しむのかについて、および知恵はどのようにして見出せるかについて記されている11
  • 詩篇:非常に多彩な内容に富んだ150篇の詩歌(神を讃える歌、悪や不正を嘆く歌など)が収められている12
  • 箴言:知恵・正しさを薦め、愚かさ・悪を戒める詩歌に続いて、賢人たちの格言が収められている13
  • 伝道者の書:裕福か貧しいか、賢いか愚かかに関係なく人は皆いつか死ぬという現実を前にして、富や知恵を得ることにどんな意味があるのかについて記されている14
  • 雅歌:男女間の愛を讃える愛の調べが歌われている15

新約聖書の手紙(書簡)

新約聖書の目次をみると、非常にたくさんの「手紙(書簡)」が収められているのが分かります。が、これらの手紙の内容の大部分は聖書全体の話の流れに直接的に関係することはありません。

それじゃあ、大して重要とは言えないな

とするのは早すぎます。場合によってはむしろ、手紙の方が重要になってくることもあります。なぜなら、

現在の私たちの生活に関係のある事柄が記されているのが手紙(書簡)

だからです。

聖書全体の話の流れを踏まえた言い方にすると、大枠として、新約聖書の手紙には以下の二つのことが記されています。16

  • 神の子イエス・キリストを信じ従うことで神と人間の絆が回復される道が切り開かれるようになったということが、私たちにとって何を意味するのか
  • イエスが再びやって来て神が人を救う物語が完結するときまで、私たちはどのように生きるべきか

なお、手紙の内容は、世間一般のどの手紙でも同じように、手紙が宛てられた人々がその当時直面していた問題・状況を踏まえたものとなっています。

このため、

当時の人々の問題・状況を知らなければ、その手紙の内容を正しく理解することができません。

ということで、以下に「当時の問題・状況」と「強調点」を簡潔にまとめたものを記しておきます(細かい内容ですので、興味のない方は「まとめ」に飛んでください。)。17

手紙の名称当時の問題・状況強調点
ローマ人への手紙ユダヤ人のクリスチャンと異邦人のクリスチャンとの間の文化的違いがイエスを信じる信仰生活にも違いを生じさせ、両者の間に緊張関係が生まれていた・ユダヤ人も異邦人も一つの神の民
・キリストを通した神の救いにおけるユダヤ人の役割
・イエス・キリストを信じることで得られ、かつ聖霊によってもたらされる恵みによる救い
・真の義を生じさせるのは律法ではなく聖霊
・神の民として、この世で一致して生きるための (聖霊による)心の変革の必要性
コリント人への手紙第一社会における多様なグループ(富裕層や労働者層など)間の対立する価値観が教会内に不和をもたらしていた・福音の中心的メッセージとしての十字架に架けられたメシア(救い主)
・神の知恵と力としての十字架
・福音にふさわしいクリスチャンの振る舞い
・聖霊が共にいる生活の本質
・亡くなったクリスチャンの肉体をもった復活
コリント人への手紙第二パウロに対立するグループが出現し、(教会の)働き・奉仕に関する意見が対立していた・キリストに倣った仕える者としてのクリスチャンの働き・奉仕
・新しい契約の素晴しさ
・聖職者・奉仕者の弱さに表れる福音の素晴しさ
・和解の福音
・義務感ではなく寛容な心から行う貧しい人々への援助
ガラテヤ人への手紙パウロに対立するユダヤ人のクリスチャングループが出現し、ガラテヤに住む人たちに自分たちの文化(律法を守り割礼を施すこと)を押し付けようとしていた・神とキリストから直接与えられた使徒してのパウロの権威および福音
・倫理的宗教的律法の順守に終止符をもたらしたイエスの死
・律法ではなく聖霊がもたらす義
・罪深い欲望に抗う力を与える聖霊
・キリスト・イエスへの信仰を通して与えられる聖霊
エペソ人への手紙・教会内のユダヤ人と異邦人の間に人種的または文化的対立が存在していた
・クリスチャンが少ない地域にあって、クリスチャンとして社会で模範的な生活をすること、また異教の影響(魔術や占星術など)に惑わされないように生活することを伝える必要があった
・全宇宙に及ぶキリストの偉業
・十字架によってもたらされたユダヤ人と異邦人との和解
・「全ての支配・権威」に対するキリストの絶対的権力と教会の関係
・聖霊による一致を表すクリスチャンの振る舞い
ピリピ人への手紙・教会が直面するであろう将来的な迫害に備えるために協同を呼びかける必要があった
・教会内に対立が生じていた
・福音を通したパウロとピリピの教会の協力関係
・人生の全てのカギとしてのキリスト
・他者のために身を犠牲にすること(キリストの死に表されている)でキリストのようになりキリストを知ることの大切さ
・困難の中でもキリストにあって喜ぶことの重要性
・謙遜と愛がもたらす一致
・最終的に与えられる賞・褒美の確信と追及
コロサイ人への手紙(フリジア[小アジアの古代王国]の文化の影響を受けた)ユダヤ教の神秘的または啓示的側面に傾倒していたクリスチャンがいた・神の子キリストの絶対的権力と十全性
・罪を赦し、「全ての支配・権威」の脅威から解放するキリスト
・宗教的な規則や決まりではなく、神のかたちを体現する倫理的生活が重要
・あらゆる種類の関係性に影響を与えるキリストのような生き方
テサロニケ人への手紙第一(死傷者も出ていたと思われる)迫害を受けていた教会に対して、将来に対する希望を持つように励ます必要があった・テサロニケに住む友人に対するパウロの心温まる配慮
・苦しみはクリスチャンの生活の一部
・淫らな行いに対して身を聖なるものとして保つべきこと
・他人の施しに溺れず自ら働くことの必要性
・死んでしまったクリスチャンの復活
・キリストが再び来ることへの備え
テサロニケ人への手紙第二「将来に対する希望」に関するパウロのメッセージ(特に「主の日」について)を誤って理解している人々がいた・テサロニケの人々に対する確かな救いと迫害者に対する確かな裁き
・主の日はまだ来ておらず、その前にまず「背教」が起こること
・怠けたりおせっかいばかりしている人たちは食べるために働くべきこと
テモテへの手紙第一テモテの住むエペソにおいて、律法に基づく禁欲主義を教える偽教師たちがパウロと彼の仲間の働きを妨げていた・全ての人々に表された神の憐れみとしての福音の真理
・教会の指導者の持つべき資質
・教会の指導者にふさわしくないのは、誤った教えを説く者、禁欲主義、論争好き、お金好き
・(テモテに対して)福音に堅く立って、真のクリスチャンの資質とリーダとしての模範を示すことの重要性
テモテへの手紙第二パウロに敵対する人たちの影響力が増し、パウロ自身も処刑を間近に控えている中、教会の外からの迫害や内からの誤った教えに対して、聖書の教えに忠実であることをテモテに教える必要があった・「死を滅ぼし、福音によっていのちと不滅を明らかに示された」(1章10節)キリストの救いの業
・苦しみや困難を耐え忍びキリストに従うべきこと
・(テモテに対して)パウロとの長い友情を思い起こし苦しみを共にしてほしいこと
・福音のメッセージを述べ伝える・教えることに対する忠実さ
・誤った教えの広がりに注意すること
・キリストに従う者に対する最終的な救い
テトスへの手紙誤った教えがテトスの住むクレタの教会に広がっていた・神の民(特に教会の指導者たち)は素晴らしい人格と行いを兼ね備えるべきこと
・ユダヤ教の律法に根差した誤った教えに対抗する恵みの福音
ピレモンへの手紙ローマの法律に従ってピレモンの奴隷オネシモを送り届けるにあたり、オネシモの奴隷の身分を解くようにパウロがピレモンとの友好関係に訴えかけている人々を和解に導く福音(ユダヤ人と異邦人だけでなく奴隷とその主人さえも皆が兄弟となる)
へブル人への手紙キリストが成した御業が実質的に否定され、クリスチャンとしての信仰生活から離れていく人が増えていた18・神は、御子イエスにあって、語るべきことを全て語り尽くしていること
・キリストを捨てることは神を捨てることに等しいこと
・キリストはそれ以前にあったもの(古い啓示、天使たち、モーセやヨシュアによる出エジプト、祭司制度など)全てに勝っていること
・神の民は、全ての人を神に導く御子イエスに絶対の信頼を置くことができること
ヤコブの手紙ローマ帝国内の社会状況に不満をもったユダヤ人クリスチャンが多くなっていた(最終的には紀元66-73年のユダヤ戦争へとつながる)・信仰者としての実践的な信仰
・試練における喜びと忍耐
・真の(クリスチャンの)知恵の性質
・富める者の貧しい者に対する態度
・舌を制すること(誤った言葉遣いと適切な言葉使いについて)
ペテロの手紙第一ローマ帝国によるローマに住むクリスチャンへの迫害が増してきていた中、皇帝崇拝の影響の強い小アジアに住む(主にユダヤ人)クリスチャンたちに対して、事前に警告する必要があった・義のために苦しむことは驚くべきことではないこと
・キリストと同じく、クリスチャンもまた不当な苦しみに耐えるべきこと
・キリストは私たちを罪から解放するため、私たちの代わりに苦しまれたこと
・神の民はいつ如何なる時も、敵意を前にしたときには特に、正しく生きるべきこと
・私たちの将来の希望はキリストの復活の確かさに基づいていること
ペテロの手紙第二クリスチャンの地域社会に偽教師が現れていた19・神の民が敬虔深く生活しているかどうかの気遣い
・不敬虔な生活をしている偽教師たちには確かな裁きがあること
・偽教師が「イエスは再び来るはずがない」と嘲っていたとしても、イエスは確かに再び来られること
ヨハネの手紙第一手紙の宛て先となっているクリスチャンの地域共同体を離れた人たちが、誤った教えによって共同体内の人々を惑わしていた・肉体をもって世に来たイエスが神の子であること
・神が人となりイエスとして世に来られ、十字架にかかることによって、私たちに対する愛を示されたこと
・神がキリストにあって私たちを愛してくださったように、真のクリスチャンもまた互いに愛し合うべきこと
・神の子たちは常習的に罪を犯さず、たとえ罪を犯したとしても、罪の赦しを得ることができること
・クリスチャンは彼らを愛してくださる神に絶対的な信頼を置くことができること
・キリストを信じることで永遠のいのちを持つこと
ヨハネの手紙第二ヨハネの手紙第一に同じヨハネの手紙第一の「強調点」を参照
ヨハネの手紙第三使徒ヨハネの支持する人々を受け入れないディオテレペスという人物に対する注意を喚起する必要があったクリスチャンとして、人々(特に公認された巡回聖職者たち)を受け入れ、もてなすべきこと
ユダの手紙肉欲にふけり、傲慢な態度で教える偽教師の影響力が増してきていた・不敬虔に生きながら、人々にも同じ生き方をするように教える人々には確かな裁きがあること
・聖なる生き方の重要性
・神は敬虔な者を愛し保ってくださること

まとめ

今回は、まだ聖書を一度も読んだことが無い人を対象にして、一気に読み切れる聖書の内容解説を試みました。その内容をまとめると以下の通り。

まず、聖書は大きく旧約聖書と新約聖書という二つに分かれていて、

  • 旧約聖書は「古い契約」にまつわる文書集
  • 新約聖書は「新しい契約」の基礎をなす文書集

となっています。ここで古い・新しい「契約」の大枠は

神が人々の神となり、人々が神の民となる

というもの(参照:出エジプト記6章2-8節、エレミヤ書31章33節)。

なお、イエス・キリストが新しい契約の仲介者であることから、

  • 旧約聖書はイエスが生まれる前に書かれたユダヤ教およびキリスト教の聖典
  • 新約聖書はイエスが死んだ後に書かれたキリスト教独自の聖典

と言うこともできます。

旧約聖書と新約聖書を含めた聖書全体の大きな話の流れ・あらすじは以下のようなものです(【】内の文書名は、該当する話が記されている箇所を示します)。

  1. 神が天地万物を造る【創世記1-2章】
  2. 神に造られた人間が神に背く(神のようになろうとする)【創世記3章】
  3. 人間が神に背いた故に壊れてしまった神と人間の絆を神が回復しようとする
    1. 神はアブラハムと契約を結び、アブラハムとその子孫を通して全人類を祝福しようとされる【創世記12-50章】
    2. エジプトで奴隷となったアブラハムの子孫たち(イスラエル民族)を神がモーセを通して救い出される【出エジプト記1-18章】
    3. 神はエジプトから救い出したイスラエル民族と契約を結び、彼らを神の民とする代わりに彼らが守るべき掟・定めを与える【出エジプト記19章ー申命記】
    4. アブラハムに与えると約束した土地を神がヨシュアを通してイスラエル民族に占領させる【ヨシュア記】
    5. 神に従いきれないイスラエル民族(そんな中にも神に忠実な人たちがいたことが【ルツ記】に記されている)は他民族から圧迫を受けるが、神が立てた「さばきつかさ(士師)」によって救い出される(しかし、士師が死ぬと再び神に対して不従順になり、他民族から再び圧迫される、ということを繰り返す)【士師記】
    6. 神から遣わされた預言者サムエルによってダビデがイスラエル王国の王となり、神はダビデと契約を交わす【サムエル記】
    7. ダビデの後の王たちの多くは神に従わなかったため【列王記ー歴代誌】、神は事あるごとに預言者たちを送ってイスラエル民族に改心を促す【イザヤ書ーマラキ書】
    8. 神に立ち返らなかったイスラエルの王国は滅ぼされ(その悲しみを歌にしたものが【哀歌】)、ユダヤ人たちはバビロンに捕囚されてしまうが、ペルシア時代にはエルサレムに帰還することを許され神殿と城壁を再建する【エズラ記―ネヘミヤ記】
    9. 預言者たちを通して到来が予言されていた救い主(メシア)として、神の子イエス・キリストがこの世に来られ、イエスを信じ従うことで神と人間の絆が回復される道を切り開く【マタイの福音書ーヨハネの福音書】
    10. イエスの弟子たちが神の霊である聖霊の力を受け、各地でイエスのことを宣べ伝える【使徒の働き】
  4. 将来的にイエスが再びやって来て、全てを正しく裁き、新しい天地が創造され、神が人を救う物語が完結する【ヨハネの黙示録20-22章】

ただし、上記の聖書全体の話の流れに直接的な影響を(ほぼ)与えない文書が聖書内には存在していて、その内容を大まかに言うと以下になります。

  • イスラエル民族の歴史に深く関わってこられた神に対する人間の側の「現在的応答」(神への感謝や現状への嘆きなど)【ヨブ記、詩篇、箴言、伝道者の書、雅歌】
  • 神の子イエス・キリストを信じ従うことによって、神と人間の絆が回復される道が切り開かれるようになったことの意味【新約聖書の手紙】
  • イエスが再びやって来て神が人を救う物語が完結するときまでの生き方 【新約聖書の手紙】

以上になりますが、やはりまとめはまとめですので、今回の記事の内容を念頭に置きながら、実際に世界のベストセラー「聖書」を読んで頂きたいと思います。きっと何らかの発見があると思います。

聖書のどこからどう読むべきかについて分からない場合は、下記の記事をご参照ください。

読みにくい聖書、どう読む?ー初心者向けの読み方・読む順番(前編)ー
「聖書が読みにくい理由は何か?」を考えつつ、全体の話の流れをつかむことを念頭に実践的な聖書の「読み方・読む順番」を紹介します。聖書には興味があるけどまだ読んだことがない方、読んではみたけど途中で挫折してしまった方、是非お試しください。
読みにくい聖書、どう読む?ー初心者向けの読み方・読む順番(後編)ー
聖書には興味があるけどまだ読んだことがない方、読んではみたけど途中で挫折してしまった方を対象にした実践的な聖書の「読み方・読む順番」の後編。「律法」はもちろんヨブ記や詩篇、「預言書」に「黙示録」等。読むべきか、読まざるべきか、それが問題です。

参考文献および注釈

  1.  “Best-selling book of non-fiction,” Guinness World Records, accessed January 24, 2018, http://www.guinnessworldrecords.jp/world-records/best-selling-book-of-non-fiction; 宗教・思想関連書籍の発行部数では、この他に中国の「毛主席語録」が9億部(65億部とも)、イスラム教の「コーラン」が8億部、エホバの証人の「神はわたしたちに何を求めていますか」が2億部、モルモン教の「モルモン書」が1億2000万部とされているようです。“ベストセラー本の一覧,” Wikipedia, December 21, 2017, accessed January 24, 2018, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%BB%E3%83%A9%E3%83%BC%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7&oldid=66695393.
  2. 「新共同訳聖書」には旧約聖書、新訳聖書の他に「旧約聖書続編」というものが含まれているものがありますが、ここでは旧約聖書と新約聖書のみ扱います。
  3. 二つの「契約」の関係および「旧約聖書」「新約聖書」という言葉の成り立ちについては下記を参照。F. F. Bruce, “BIBLE,” ed. D. R. W. Wood et al., New Bible Dictionary (Leicester, England ; Downers Grove, Ill: InterVarsity Press, December 1996), 136.
  4. 詳細な説明は下記を参照。浅見定雄, 旧約聖書に強くなる本 (日本基督教団出版局, 1977年), 28–31頁.
  5. Ibid., 18頁.
  6. 詳細は下記ブログを参照ください、「聖書は信頼できる書物か?①―聖書の概要:構成と内容(5W1H)―」
  7. Bruce, “BIBLE,” 137–138.
  8. 詳細は下記を参照。Gordon D. Fee and Douglas K. Stuart, How to Read the Bible Book by Book: A Guided Tour (Grand Rapids, Mich.: Zondervan, 2002), 14–20.
  9. 詳細は下記を参照。浅見, 旧約聖書に強くなる本, 131–133頁.
  10. Ibid., 30頁.
  11. 詳細は下記を参照。Fee and Stuart, How to Read the Bible Book by Book, 121.
  12. 詳細は下記を参照。ibid., 130.
  13. 詳細は下記を参照。ibid., 144.
  14. 詳細は下記を参照。ibid., 154.
  15. 詳細は下記を参照。ibid., 161.
  16. Ibid., 315.
  17. 下表において、「当時の問題・状況」欄の脚注が無いものについては下記の文献を参照。Craig S. Keener, The IVP Bible Background Commentary: New Testament, First edition. (Downers Grove, Ill.: IVP Academic, 1994); 「強調点」欄については下記の文献を参照。Fee and Stuart, How to Read the Bible Book by Book.
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