物理好きな牧師の読後の感想:『科学者はなぜ神を信じるのか』三田一郎著

ある教会の方の勧めで、『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』(三田一郎著)を読む機会が与えられました。

何を隠そう(?)私の元々の専門は素粒子物理学でしたので、著者である三田一郎教授の研究分野と非常に近く、神(宗教)に関する捉え方も非常に近いものを感じました。

ということで、この記事では本のレビュー・書評とまではいきませんが、『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』(以下、『科学者はなぜ』と略します)の内容を簡単に説明しつつ、私自身が考える「科学と神との関係」も併せて紹介したいと思います。

なお、本のネタバレを含みますので、あらかじめご容赦ください。

話の流れは以下の通り。

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本のテーマ:科学者であることと神を信じることは矛盾しない

三田教授が『科学者はなぜ』を書くに至った経緯は、「はじめに」に書かれてあるとおり、

私にとっては、私が科学者であることと、神を信じることが矛盾しているわけではないことを、どのように説明すればよいかが一つのテーマ

となったためだそうです。1

要するに、

「科学者であることと神を信じることは矛盾しない」ということを説明するのが『科学者はなぜ』の一番の目的

だと言えます(その結果、本のタイトルにある「科学者はなぜ神を信じるのか」も分かるはずという流れです)。

ちなみに、日本にいるとなかなか実感できませんが、世界的には科学者でありながら神(宗教)を信じている人は決して少なくないようです。2

が、しかし、やはり

科学者であることと神を信じることは矛盾しない

と聞くと

そんなことはないでしょ。だって、科学と宗教は矛盾だらけじゃないか!

または、『科学者はなぜ』にも紹介されている高校生のように

科学の話のなかで神を持ち出すのは卑怯

と思われる方は多いと思います。3

確かに、自然界における出来事・現象に対して、科学的説明と宗教的説明が異なること(矛盾していること)は少なくありません(例えば、天動説と地動説の違い、創造論と進化論の違いなど)。

また、自然界で起こる出来事・現象を説明するときに、何でもかんでも「それは神様のなさったことだ」というのは思考停止に陥りかねません。4

しかし、三田教授の説明しようとしていることは、「科学的説明と宗教的説明が矛盾していない」ということではなく、「自然現象を説明するのに最初から『神業』を持ち出すのを良しとする」ことでもありません。

あくまでも、三田教授が説明したいことは

科学者でありながら神を信じることは矛盾しない

ということ、もしくは、

神を信じながら科学を研究することは矛盾しない

とも言えます。

科学と神の関係の変化

神を信じながら科学を研究することは矛盾しない

その具体例が『科学者はなぜ』でも取り上げられているコペルニクス、ガリレオ、ニュートンといった昔の著名な科学者たち。

彼らが生きた時代は、ある意味、神を信じることは当たり前の時代でした。従って、皆もれなく神を信じていた訳です。

しかも、彼らの信じていた神は天地万物を創造した神。ですから、

彼らが信じる神が創造した自然をより良く知ること(科学を研究すること)を通して、彼らの信じる神についてより良く知ろうとした

訳です。 5この意味において、

神を信じながら科学を研究することは全く矛盾しない

と言えます。

しかしながら、「科学と神の関係」についての話がややこしくなってくるのが『科学者はなぜ』でいうとアインシュタインが出て来る20世紀初頭頃からです。

この頃になると、科学の進歩のおかげで、それまでは「神業」と思われていた出来事・現象の多くが物理法則によって説明・予測可能となりました。

と同時に、アインシュタインの相対性理論によって、それまでは絶対不変と思われていた時間や空間が相対的なもの(見方によって伸び縮みするもの)であることが分かります。6

また、量子力学によって、微小な粒子の位置と速度(運動量)は同時に正しく(誤差なく)測定し得ないことが分かります。7

言うなれば、

それまで「絶対不変」、「絶対確実」と思われていたことが、実はそうではなかったという事実に遭遇してしまった

訳です。

このような科学の発展(物理学的発見)が、それまで

「絶対的な存在」であり、信じられて当然だった神の立場に変化

をもたらします。

にもかかわらず、科学者(物理学者)の中には何らかの神(超自然的存在)を信じている人が多いことを示すため、三田教授は

  • ある牧師とアインシュタインの対話
  • ハイゼンベルクの手記
  • シュレーディンガーの言葉
  • ディラックの手記

などを引用しています(興味のある方は『科学者はなぜ』を参照ください)。8

科学者が神を信じても良い理由

私自身の個人的な経験では、自然を相手に研究する科学者は、数学者に比べて、何らかの神(人間の理解を超えた超自然的な存在)を信じている人が多い気がしています(明確な根拠はありません)。

その理由はやはり、

自然を相手に研究していると、自然のスケールの大きさや複雑さの中に人間の小ささや知性の限界を感じることが多いから

ではないかと思います。

また、

一見、非常に複雑で理解不可能にみえる現象が、実は非常にシンプルな法則に基づいて説明することができることを発見したとき、そこに何らかの知性(自然界の法則を定めた宇宙の設計者) の存在を感じずにはいられない

のかもしれません。

さらに、科学者というのは基本的に「なぜ」「どのように」という疑問をもって、自然における出来事・現象を追求していく立場にあります。

が、その「なぜ」や「どのように」という問いかけは、恐らく永遠に問い続けることができる類の問いかけでもあります。

例えば、

この宇宙はどのようにして始まったのか?宇宙に始まりはあるのか?

という問いに対して、現代科学は、

宇宙はビッグバンによって始まった

という有力な仮説をもって答えるかもしれません。しかし、

では、ビッグバンはなぜ起きたのか?ビッグバンを引き起こした莫大なエネルギーはどこから来たのか?

という問いかけに対して、現代科学は(今のところ)明確な答えを与えることができていません。9

ここで、『科学者はなぜ』でも紹介されているホーキングなら、彼が提唱した「宇宙無境界仮説」を引き合いに出しながら、

そもそも宇宙には始まりも終わりもなく、ただ単に存在しているだけだ

と言うかもしれません。10

しかし、三田教授も指摘しているように、仮にホーキングの「仮説」が正しいとしても、それで話は終わりません

なぜなら、私たちは依然として以下のような問いを投げかけることができるからです。

  • なぜ宇宙には始まりも終わりもなく、ただ単に存在しているのか?
  • 始まりも終わりも無い宇宙の存在を説明する「法則」は誰が創ったのか?11

もし、このような問いを投げかけることを止めて、

「宇宙の始まりはビッグバン!以上」

もしくは

「宇宙には始まりも終わりもなくただ存在しているだけ!以上」

で話を止めるならば、三田教授も指摘しているように、それこそ思考停止状態に陥ってしまうことになります。12

しかし、ご承知のように、上記のような問いかけを続けることによって、今日まで科学は発展してきた訳です。

と同時に、上記のような問いかけを続けることによって、

(科学法則も含めた)自然を造り出した神の知恵と力、および自然に対する人間の無知と無力を思い知らされる

ことにもなります。もう少し詳しく言うと、

上記のような問いかけを続けることができるという現実を省みる時、全てを完全には知り尽くせない人間の限界(無知と無力)に気付かされる

と同時に、

人間には知り尽くせないこと全てを完全に知っている神の知恵、そして知っているだけでなく、その全てを造り出した神の力に対して、尊敬と畏怖と感謝の念を抱くようになる

のです。一言でいうと、

自然科学を研究することによって、(科学法則も含めた)天地万物の創造主である神をより深く知り、神への畏敬と感謝の念が深まる

ことになるのです。つまり、

科学者でありながら神を信じることは矛盾しない

と言えます。

最後に

今回は本のレビュー・書評とまではいかないですが、『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』(三田一郎著)の内容を簡単に紹介しながら、私自身が考える「科学と神との関係」についても説明してきました。

今回の話の一番のポイントは、恐らく、

天地万物の創造主としての神の存在を信じる(認める)かどうか

もしくは、

科学を勉強しても神を信じるようになるとは限らない

ということでしょう。

それだからこそ、本のタイトルは「科学者はなぜ神を信じるようになるのか」ではななく「科学者はなぜ神を信じるのか」なのだと思います。

三田教授の場合は、科学を研究することを通して神を信じるようになったそうです。13

が、私自身はそうではありませんでした。私の場合は、

日常生活におけるクリスチャンとの触れ合い(例えば、見返りを期待することなく他人に尽くす姿をみること)を通して、クリスチャンの信じる神を信じるようになりました。

だからといってもちろん、「三田教授の場合と私の場合のどちらが優れている・劣っているか?」という問題ではありません。ただ、

神を信じるに至る過程・理由は人それぞれ異なる

というだけです。

そして、これまで見てきたとおり、

一度、創造主なる神の存在を認めてしまえば、神を信じることと科学を研究することに何の矛盾も感じません。

むしろ、自然について知れば知るほど、自然を造った神に対する畏敬と感謝の念が深まるばかりです。

科学者であることと神を信じることは矛盾しない。

また、

科学者でありながら神を信じている人は少なくない。

となれば、残された問題は

あなた自身が、創造主なる神の存在を信じる(認める)かどうか

なのかもしれません。

参考文献および注釈

  1. 三田一郎, 『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』 (東京: 講談社, 2018年), 4頁.
  2. 全人口における宗教者の比率と科学者における宗教者の比率を比べると、フランスでは46%と16%、英国では47%と27%、米国では67%と30%、香港では20%と39%、イタリアでは85%と52%、台湾では44%と54%、トルコでは84%と57%、インドでは77%と59%になるという最近の調査があります。詳細は下記を参照。“First Worldwide Survey of Religion and Science: No, Not All Scientists Are Atheists,” accessed August 24, 2018, https://phys.org/news/2015-12-worldwide-survey-religion-science-scientists.html; Elaine Howard Ecklund et al., “Religion among Scientists in International Context: A New Study of Scientists in Eight Regions,” Socius 2 (January 2016), accessed August 24, 2018, https://doi.org/10.1177/2378023116664353.
  3. 三田, 『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』, 4頁.
  4. なお、科学者の「定義」には、そのような思考停止には陥らず自分の力で突き詰めようとする姿勢を持つことが含まれていると三田教授は考えています。ibid., 262頁.
  5. Ibid., 62, 78, 128頁.
  6. 詳細な解説は下記を参照。ibid., 147–157頁.
  7. 詳細な解説は下記を参照。ibid., 179–198頁.
  8. Ibid., 169, 209–216, 217–218, 221頁.
  9. “The Origins of the Universe,” Science, last modified January 18, 2017, accessed August 24, 2018, https://www.nationalgeographic.com/science/space/universe/origins-of-the-universe/.
  10. 三田, 『科学者はなぜ神を信じるのか コペルニクスからホーキングまで』, 237頁.
  11. Ibid., 262–263頁.
  12. Ibid., 263頁.
  13. Ibid., 256–259頁.
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